もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

揺れる心、決意の切欠







ぞくり、と背筋に悪寒が走る
鳥肌が立ち、いやでも感じる気配


「百鬼夜行の行き先を・・・!」
「流石に察しが良いな」


ぺたり、ぺたり、とした音が近づき大きくなるにつれ、濃くなる気配
私は急いで懐から符を2枚取り出し、息を吹きかける
力を持った符は、近くに居た兵助と喜八郎に飛んでいくと、二人の周りを一周して各々の手の中に納まった
ぱぁん!と拍手(かしわで)を打ち、ゆるりと目を細める


「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン!」


真言を唱えるものの、一時のしのぎにしかならない
このままでは鬼達の溜まり場になって、この場所は潰えかねなくなる
符を持たせた二人が背後に居る、見える彼らは何が原因か分かっている、でも、それ以外の生徒達は?
皆見えない人たちばかりだ
わけも分からずに衰弱し、死んでいくのか?


「せいぜいあがいてみるといいさ、御門の末裔よ」


そういうと、彼は百鬼夜行の鬼達が、この学園の敷地内から出られぬように術を施し、去っていく
その後ろ姿に、勢い良くクナイを投げつけるが、寸前でキィンと音を立てて弾かれる
弾いた者の姿は


「・・・とう・・・だ・・・?」


遠いの昔
弟の面倒を見ていた、あの、騰蛇がそこに居た
走馬灯のようによぎる記憶
けれど、その中にあった優しい光りをその目に灯す騰蛇の姿と、今私の目の前に居る騰蛇は似ても似つかない
同じなのは、外見だけだ「晴彦(せいげん)様は、殺させない」
「っあ・・・!」


それは、騰蛇がその思い出()を賭して守るとした目
過去、弟に向けていた目のはずだった
・・・いつの間に、騰蛇は死んだのだろう
その思い出を、過去の記録としてしまったのだろうか


「遥人・・・?」


後ろで兵助の声が聞こえた
それにはっと我に変える
私は、今誰だ
私は御門遥人だ、安倍の長姫じゃない
ふるり、とかぶりを振る


「哀愁に浸る暇は無し、今はただ・・・未来さきを見るのみ」


心は決まった
迷う暇は無い、今はただ、この学園を、今私が生きるこの場所を守る事が最優先


「藍」


一言名を呼べば、心得たとばかりに差し出したのは、長巻
それを受け取ると、私は騰蛇目掛けて一直線に切りかかった




揺れる心、決意の切欠





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