もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

土御門と




side:兵助



「だーかーらーっ、アンタが出る幕はないって言ってるのよ!」
「妖怪が簡単に出入りできる場所が安全なわけが無いだろう?」
「それは私たちが遥人の庇護下に居るからよ!結界張った本人が許可してるのに入れないわけ無いじゃないの!わっからない人間ね!面倒くさい!」


獣の姿ならば、きしゃーっ!っと毛を逆立てていそうなくらいに叫ぶ由
話の通じない人間は大ッ嫌いよ!と叫ぶ様に、本当に嫌いなんだろうなぁと伺える


『由!』
『大丈夫か』
「あら、兄さんに藍じゃない」


早かったのね、とこぼす由に、蓮は相変わらず緊張感ないね由・・・と呟いたのが聞こえた
蓮と藍は由の前に居る彼を鋭く睨む


『遥人の守護するこの学園に何用か』
「この学園の守護を」
『遥人以外の守護はいらないよ』
「妖怪は皆私の話を聞かないね・・・その遥人とやらが居なければ何も出来ない弱い者が」


ぴりり、と空気が緊張した
蓮も藍も、遥人を卑下される事を嫌う
自分の主人だから、というのもあるだろうが、それだけではない絆もあるのだろう
・・・少しだけ羨ましいと思ったのは内緒だ


「ちょっと、遥人の事とやかく言わないで」
「ふぅん?一応主従はあるのだな」


それも、どこまで本物かは分からないが、とあざ笑うように笑みを浮かべた



「遥人と蓮や藍の主従は本物だ!あんたが入り込めるようなうすっぺらいものじゃないって俺は知ってる!」
「そうそう、遥人先輩は本当に蓮も藍も、由も大切にしてくれているのだから。それが偽りだ、なんてありえないに決まってるでしょう」


俺に続いて、むすっとした顔でそういった綾部
由はなにやら感動していて、喜八郎・・・!と声を漏らしている
そこに届いた鋭い声


「縛!」


遥人の声だ
それを分かっていたかのように、男は指を立てた手を横に一閃させる


「破!」


遥人の舌打ちが聞こえた
遥人の顔を見た男は、ほう、とでも言うように目を細める


「・・・御門の者か。あれは潰えたと聞いていたのだが」
「残念だが、我が御門は潰えてなどおらぬ」
「それも主が最期だろう?」


ぴん、と背筋を張って真正面から男にそう言い切った遥人を格好いいと思うのは、俺の欲目だろうか
自分の家に誇りを持っているであろう遥人の姿に、凄いと感じるのは、欲目なんかじゃなくて俺の本当の気持ちだ
しばらく遥人と男の術の攻防があったものの、男は笑いを浮かべたまま跳躍し、後ろに下がった
その先には学園の門


「御門はむかしからあまり好きではないのだよ、土御門の傍系の癖に土御門よりも粋がって居たからな」
「・・・あなたは、土御門の者か」
「そうだと言ったところで、何か変わるものでもあるまいさ」


そういって男は笑うと、門に手をつけた


「辻へ繋がる扉よ、開くが良い」


その言葉とともに、門の雰囲気が変わった




土御門と遥人





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