もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

見える陰の場所








先日兵助に見鬼があると発覚してから、兵助の回りは雑鬼で騒がしくなったらしく、ちょっとだけ疲れた顔をしていたので、そっと珠鬼に控えるようにと伝えておいた
珠鬼は、ここら辺一帯の雑鬼たちをまとめていて、その珠鬼とはこちらに来たときに調伏しないことを言っておいたので、そこからちょくちょくと遊びに来られるようになった次第だ
学園にも結界は張ってあるが、雑鬼たちは通れるように、人に害の無いものは通れる結界を張っている






「最近はめっきり平和だな」
「何も無いことはいいことですよ」
「・・・不運は相変わらずだがな」


言わないでくださいよ、とうなだれる数馬に、小さく笑う
一年は組が入学してから、は組には事件が多いようだが、こちらはまったく無い
無さ過ぎて退屈だ、とは三郎の談だが
それを言うと雷蔵に怒られるために、私の部屋にわざわざ来て愚痴って行く
・・・来ても、お茶くらいしか出せないのだがな
まあ、茶菓子目当てのようだし、それに関しては特に何も思わないので、あまり気にしていない



「まあ、こうも何も無いと、三郎が何かやらかしそうでな」
「鉢屋先輩ですかー・・・最近おとなしいですね」
「あぁ、雷蔵が止めている」


あ、そうなんですか、と納得したように言った数馬に、三年生まで三郎の事は知られているようだ
まあ、良くも悪くも知名度があるといえよう


「このまま、何も無く一年が過ぎてくれると、いいのだがな」


ぽつり、と呟いた
そうですね、と返してくれた数馬を横目に、私は新しい風邪薬を調合した
・・・まあ、その平和も、すぐに崩されることとなったが




天気の良いある日
私は学園長に呼ばれた


「御門遥人、参上いたしました」
「うむ、入りなさい」
「失礼いたします」


学園長の庵に入室すれば、そこには一年は組の担当である、山田先生と半助さんの姿
・・・一年は組がらみなのだろうか、私はまだ一年は組だと、乱太郎くらいしか交流は無いのだが・・・
一緒にどこかに行くようなものとなると、大変かもしれないな、とぼんやり思いながら、学園長先生の前に座った


「今回おぬしを呼んだのはじゃな、一年は組に在籍する、夢前三治郎の事なのじゃが・・・」


そこでちらり、と半助さんを見た学園長が言葉を切る
学園長の視線に頷いた半助さんが、私を見た


「その三治郎なんだが、あいつは山伏の息子で、霊力があるんだ」
「・・・では、見える、と。そういうことですね」
「あぁ。その三治郎が、この間裏山に授業で言ったときに、黒い場所が在る、と」


黒い場所、そういわれるのは、色が黒く見えるからなのだが・・・
安直、ではあるかもしれないが、やはり良くないものが居る場所は暗く見えるのだ
影とは違う、陰の場所
先生方は私に、その場所を見、もし可能ならば祓って欲しいといわれた
私は了承すると、一度部屋に戻った




見える陰の場所






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