もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

保健委員のお母さん?







最初に数馬と左近が迎えに行ってから、随分とたっている
もしかしたら他のみんなは終わっているかもしれないな、と思いながら、私は医務室の戸を開けた


「・・・伊作先輩、なにしてるんですか・・・?」
「みんなが戻ってくるのにあわせてお茶でも用意しようかな、と・・・思ったんだけどね?」


戸をあけるとそこにはお茶の葉を散らばらせた伊作先輩の姿
事情を聞くと、ものすごくすまなそうにそう言った
私も悪気がないことは十分に分かっているし、伊作先輩の不運の強さがもうどうしようもないことも、今まで共にいたことで十分に分かっている


「全く・・・だれか一緒の時じゃないと駄目ですよって、言ってたでしょう」
「あはは・・・何時もごめんね、遥人」


私は良いですよ、と返して、茶葉が茶葉入れに残っていないことを聞いてから、食堂に取りに行った
そこで、ふと自分の部屋にあった饅頭の存在を思い出した
折角だし、持って行くかと藍に頼み、私は食堂に向かった




きゃいきゃいと食堂から聞こえてきた声は一年生だろうか
と、その中に聞き覚えのある声が混じった


「あぁっ、一平だけずるいっ!」
「早いもんがちなんだから、遅くたべてる三治郎が悪いんだろ」
「まあまあ、喧嘩するなってお前等」


そのいさめる声に、どの委員会が居るのか、察しのついた私は懐にこんぺいとうを持っていることを確認してから、食堂にはいった

まず見えたのはいがみ合っている一年生三人とそれをいさめるハチ
そしてその横でどことなく暗い一年生が、どうして良いか分からないのかおろおろしている
そんなことにはお構いなしに二人の世界に入っているのが、孫兵とジュンコだ


「ハチ」
「うおっ、あ、遥人か。どうしたんだよ、わざわざ気配たてないようにして」


私は疑問の表情を浮かべるハチに、懐から紙に包まれたこんぺいとうを取り出し、渡した


「個数が足りないんだろう?同じものではないけれど、他の子に分けてあげると良い」
「え・・・いいのか?遥人のところも一年生いるだろ」
「そちらは別のものがある、気にすることはない」


そこまで言えば、ハチはありがとな、と言って、差し出していた包みを受け取った
ハチがそれを配るのを横目に見ながら、私はおばちゃんから茶葉を貰った




すこし急ぎ足で医務室に戻れば、既に医務室の前に饅頭を持って佇む藍の姿
饅頭を受け取り、礼を行ってから、私は医務室に入った


「おかえり、ありがとう遥人」
「おかえりなさい、遥人先輩」


伊作先輩を皮きりに、口々におかえりなさいと迎えられると、私はただいまもどりました、と答えてから、早速お茶を入れる
部屋の中は出たときよりもきれいになっていて、不運にならずに部屋を掃除出来たのだなと伺うことが出来た
それにすこし安心したのだが、その自分の行動に、少しだけ、私は彼らの母親だろうか、と思ってしまったのは・・・仕方のないことなのだろうか・・・?




保健委員のお母さん?






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