もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

5年目の始まり







既に5回目の春に、後2年か、と思う
小さかった私たち
守られてきた私たちも、すでに守るために切り捨てる覚悟は出来上がった
入った頃にはきっと、そう覚悟するなんて思っても居なかっただろう


「そうは思わないか?」
「何がだよ」


くるりと後ろを振り向いてそう問いかければ、訳が分からないというように、間髪を入れず返ってきた兵助の返答
私はそうやって軽口を言い合える友が居ることを、不思議と不変であると思ってしまう
理性はそんなわけがないと否定するのに、本能で彼らと対峙することを拒んでいるのだ
もっとも、他の5人もきっと同じだろうが


「いや、なんでもない・・・迎えに来させてすまなかった、兵助」
「気にすることない。ここに遥人がよく居ること、知ってるの俺と勘ちゃんくらいだし」


何が嬉しいのか少し笑みを浮かべてそう言った兵助に、私はそうか、とだけ返す
私は兵助に行こう、と促され、教室へ足を向けた




すっと戸を開けて中に入れば、4年のはじめよりもずっと少ない机と、そこに座る勘が私たちを出迎えた


「あ、遥人だ、久しぶりだねー、またあそこに行ってたの?」
「あぁ」
「本当、好きだね」


桃の木が植えられたその場所は、人も少ない
邪気を払うとされる桃
このような場所柄、邪気の少ない場所は限られる
その中で一番居やすい場所なのだ


「桃があるから、な」
「桃?」
「・・・邪気払いってやつか?」


きょとんとした勘に対し、もしかして、と言った風にこぼした兵助
そういえば、兵助はそう言ったことをよく知っているような気がする


「桃には邪気払いの効果があるからな。だかそれにしても・・・よく知っていたな、兵助」
「遥人が陰陽師の家系って聞いてから、少し勉強をしたんだ」


意外とおもしろいな、といった兵助に驚いたのは私の方だ
今の時代、陰陽道はだいぶ廃れてきた
確かに残ってはいるが、過去のものになりつつあるというのに、わざわざ勉強するなど


「・・・よく勉強する気になったな」
「遥人のこと、もう少し知りたかったから」


だって、そうじゃないとなんだかまた大怪我しそうだろ?と悪気のない言葉
その言い方では私がしょっちゅう怪我をしているように聞こえる
けれど4年生時の大怪我もあり、強く言えないのだ


「兵助も良くやるね。おれも一緒になってちょっと本読んだけどさ、すぐに嫌になっちゃったよ」
「勘ちゃんは飽きやすいんだよ」
「だって兵助の持ってくる本全部少し古いやつだからさー、言い回し違うし、専門書だから難しいし」


貴族の使ってる言葉と庶民の使ってる言葉は回りくどさが違うんだから、とげんなりした顔をする勘
確かに陰陽道は専門的なものだし、取っつきにくくはあるのだが・・・ものによっては簡単に書かれた物もあるはずだ
勘が投げ出すような本を選ぶ兵助の基準が少しだけ気になった



5年目の始まり






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