もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

復帰







医務室での、長かった怪我人生活も、新野先生のもう支障はないでしょうとのお墨付きを貰い、夜着から制服へ着替える
この瑠璃色の制服に腕を通すのも久々だ
私は新野先生にお礼を言ってから、自分の部屋に授業に必要なものを取りに行くべく長屋に向かった


「蓮」
『あ、遥人・・・怪我、平気?』
「蓮こそ、見た感じ治っているようだが、大丈夫か?」


部屋に狐姿のまま丸まった蓮に声をかければ、こちらを心配する声
しかし私も、大怪我をした蓮が心配だった
城に忍び込む前に大怪我をした蓮
その傍らにひざをついて、その体を確かめる
特に大きく怪我が残っていないことに私は一つ息を吐くと、まだ無理はしないようにと言ってから教室に向かった




久しぶりの教室に、少しだけ緊張する
どう思われているんだろうか
今までずっと一番でいた私が、怪我をしたことに幻滅しただろうか
それとも心配してくれただろうか
杞憂だと理性では分かっているものの、感情が怖いと叫ぶ
それでも、私は行かないといけない

一つ深呼吸して、教室の戸を開けた
しん、とした教室に響いた音は、思いのほか大きく聞こえた


「っ遥人!もう大丈夫なのか?」
「うわ、遥人久々だなー」
「死んでなくてよかったぜ」


兵助膝立ちになりながらそう言ったのを皮きりに、同級生たちが口々に軽口を言う
そこに心配していたものはひとつもなかった


「・・・ただいま」


そう呟くように言えば、声をそろえてお帰り!と帰ってくる声
それらに、私はふっと笑みを浮かべた





「長かったなー、医務室への拘束」
「でもほら、遥人は大怪我だったから仕方ないよ」
「まぁ、その前に遥人がちゃんと逃げてくれればよかったのにねー?」
「全くだ、勘右衛門の言うとおりだぞ、遥人」


昼の時間になり、久々に6人そろっての昼食になった
しかし、その会話は主に私に対する嫌みというか、そう言った会話が多く、私はそれに対して困ったように表情を浮かべることしかできなかった


「終わったことを言っても仕方ないだろ」
「まあな」


兵助がむすっとそう言うと、三郎が肩をすくめて同意する
それらは仲が良いからこその軽口とも言えるものだから、私はそこまで気にしていないのだがそれでも心配をかけたのは本当のことであるし、私もいくら陰陽師の家計であったとしても、まだまだであることを把握しておかなければならなかったのだ


「本当に、心配をかけてすまなかった」


そう言うと、彼らはそろって笑う
そして言葉は多少違うものの、無事で良かったと返してくれたのだった



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