もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

お客様







拾われてから、私の生活は今までと全く違うものになった

着ていた物は売ってお金にして
伸ばしていた長いまっすぐな髪も、不要だからとばっさり切って
使用人達がやっていた家事を受け持つ
着ていたのは一級品だったし、髪は艶やかで長かったから高く売れた
家事は、今はやってなかったけど、その前はお母様と台所立っていたから包丁が使えないなんて事はない



居きるために必要な知識は、今の私と前の私、二つの時を過ごす知識で事足りた
最初こそ取り乱した
けれど整理すれば、なんて事はない
私は死んだ
死んで新しい命をもらい、たまたま私のままだった
ただそれだけ
神に従うべく在った私を、神がどう扱おうと、私はそれを受け入れなければならないし、拒むつもりもない
それは私の義務であると自覚しているし、それすら自ら望んだことなのだから


「本当に、大丈夫か・・・?」
「心配しないで、半助さん。私は大丈夫」


心配そうに出かけていく半助さんの背中を見送ってから、散歩に出るのが私の日課だ
近所の大人と会って話しをすることもあれば、近所のほかの子どもに先生まがいのことをするときもある
けれど、それはまちまちだ
私自身は御門という貴族の家にいたから、幼い頃から学を知っていたけれど、新しい知識を得ることは無い
半助さん自信、蔵書など持つはずも無く、私の知識は一族を失ったときのままだ


「あ、遥人!」


名前を呼ばれて振り向いた
今の声は近所の男の子だ
その隣に立っていたのは、知らない男性


「・・・?だれ」
「なんか、土井さんに用事だってさ!」


元気よく言われた言葉に、私は男性をじっと見つめた
男性も私を見つめる
彼自身からなにか感じるわけじゃない
・・・でも、きっと廻りに浮かぶ"彼ら"の多さから、この男性もきっと、忍者


「いま、半助さんは居ません。・・・それでもいいなら、待ちますか?」
「そうだな、出来ればそうして欲しいんだが」
「分かりました、ついてきてください」


私はくるりと背を向けて来た道を歩き出した
後ろでゆらりといろんな感情が入り混じって付いてくる気配
男性を連れてきてくれた男の子が後ろでまたな、遥人!といってきたので、私は手を上げて応えた






私は男性を家まで案内すると、お茶を出す


「あぁ、すまんな」
「いえ、お客様ですから」


私はそのまま男性の前に座った
そういえば名前を聞いていなかったと気づいた


「お名前をお聞きしても?」
「私は山田伝蔵だ、おまえさんは?」
「遥人と」


名字を伏せて名前だけにした
貴族の家柄なのは重々承知しているし、1級品を多く持っていたから権力もあっただろう
そんな家の、それも長男といえば、また何かと面倒なはず


「遥人くんか、して、半助は何時戻ると?」


言われてぱちぱちと瞬いた
・・・そういえば、聞いていなかった
私の様子に、聞いていないことを察したのか、山田さんは苦笑いを浮かべた







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