もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

君がために僕は決する







ふっ、と空気が揺れた
俺と勘ちゃんがばっと後ろを向くと、そこには人型の藍の姿
それを見て、張り詰めた空気を緩める


「藍だったのか、驚かせないれくれよ」
「すまないな、前に出るのも慣れずに、後ろに出てしまったのだ」
「えっと、わざわざどうしたの?」


ほっとしてそうもらした俺に、藍は律儀に謝って返した
それを見ながら、勘ちゃんが藍に質問すると、藍は良い知らせだ、と言った
その言葉に、俺と勘ちゃんは顔を見合わせる
藍の持ってくるいい知らせ、それは、もしや
そう思って、俺も勘ちゃんもじっと藍を見る


「主が目を覚ました。もう一度寝たが、これで死ぬということはないだろう」
「遥人、目覚ましたのっ?」
「本当、か?・・・良か、た・・・」


俺と勘ちゃんはほっと息をつく
遥人が死なない、それだけで、今まで心にあったざわめきが落ち着く

その特別に、俺はまだ気づかない

とにかく、このことをろ組の三人にも伝えなければ、と来た道を勘ちゃんと俺は引き返した




少し歩けば、丁度正面に3人が見えた


「3人ともー、遥人が起きたって!」
「え、ホントっ?」
「藍が教えに来てくれたからな、でも、疲れてたのかすぐに寝たらしいよ」


勘ちゃんが嬉しそうに報告すると、雷蔵が勘ちゃんと同じようにうれしさと驚きの表情を浮かべた
無言のまま向けられた三郎の視線に答えるように、俺も説明に加わる
遥人が大けがをして帰ってきたときは、場をまとめていた雷蔵はなんだか表情に一番うれしさがにじみ出ていた「まだ入れはしないんだろ?だから、まだ会えないけどさ、とにかく起きたことが分かって良かったよな」
「うん、本当に」
「ったく、アイツは私たちに心配をかけ過ぎなんだ・・・」


三人の顔にも、安堵した表情が浮かぶ
本当に、遥人に心配をかけさせられてばかりだな
そう思えるのだって、きっと遥人が起きたからなんだろう

今忍務にでているのは遥人だけだけれど、きっとこれから俺たちだって忍務につく日がくるんだろう
そのときは、無理をする遥人を守らないといけないな
そう思えば、これからの実習すら怖くはなくなるんだ
だって、そこで得た経験は遥人を守るための力になるのだから




君がために僕は決する






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