もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

深夜の急患







夜の城に忍び込む
今は特に戦争を起こそうという情報もないためか、警備もそこまで強いものではない
私は郷間先輩と共に、蓮の見た部屋へ近づく
進むたびに濃くなる闇
どうやらコレが一番の原因だと見て良さそうだ
私は先輩に矢羽音を飛ばす


「(先輩)」
「(なんだ?何かあったか)」
「(まあ、何かあったといえばそうですが・・・。原因がこのすぐ先なので、ここで待機していていただきたいのです)」
「(・・・ついていかなくていいってことか)」
「(はい、お願いします)」


私は先輩から了承の言葉が返ってきたことを確認して、すぐそこの天井板を外し、中へすべり込むと共に、剣印を思いっきり横に引いた


「禁!」


対象を視界に捉える
黒い影と共に、髪の長い女性の姿
あの夜に見た"彼女"だ
とにかく彼女からアレを剥がさなければ


「臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!」


強く言葉に気を乗せて、その影に言葉をぶつければ、ゆらりと影が揺れた


『憎キヤ人間・・・!ソノ小賢シイ小童、八ツ裂キニシテ喰ロウテヤロウゾ・・・!』
『そうはさせん』


憑いていた女性から抜け出した黒い影は一直線にこちらに向かってきたが、それをさえぎるように立ち塞がった藍
藍は向かってきた影にぶつかる
すると藍の首に巻かれていた珠が光りをおび、見えない壁を作り上げる
私はそれを補助するように影の動きを止めた
そしてほんのわずかな時間で、影は見えない箱のようなものの中に閉じ込められる
しかし、藍が焦ったように言った


『遥人、急げ、よほど力が強いのか、あまり持たん!』
「っわかった」


私は印を組む
力を貸してもらう神は、高天原に居る神々


「全ては高天原におわす神の手、神の息、神の声・・・。布都之御霊、十握剣、無上行神天地玄妙――――急々如律!」


私が言い終わるのと、ピシリといやな音がして閉じ込めた結界が壊れるのは同時だった
向かってきた影に、絶大な影響を及ぼしたことは明らかだったが、動けなくなるまでとは行かず
その影は私に爪あとを残した


「っ」


腹に灼熱を当てられたような
どう表現していいの変わらない痛みが走る
脂汗がぶわりと噴出す
それでも、ここで終わるわけには行かない


「謹請、し・・・奉る、降臨諸髪諸真人、縛鬼伏邪、百鬼削除・・・―――万魔、拱服・・・っ!!」


言葉と共に、影は消えた
確実に肉を喰われただろう、痛み
もしかしたら内臓まで達しているかもしれない
それでもまだ生きているということは、生きれる可能性もあるということだろう
私は頭巾を外すと、腹に巻いた


「っおい、平気か!?」
「っつ・・・あんまり・・・平気、じゃ・・・」
「死にかけかよ・・・っ」


降りてきた先輩の言葉に、どうにか答える
腹の傷か、と確かめた先輩は、どうにか我慢しろよ、と私に声をかけると、私を抱えて城を脱出した




―――――



城を脱出してすぐに、目の前に狼が現れる
こんなときになんだってんだ・・・!


「のれ、郷間殿!」
「お前・・・御門のか」
「人の姿でなくとも顕著は出来る。俺が走ったほうが速いだろう?」


縦に割れた獣の目を細め、狼はそういった
俺は一刻を争う自体に、躊躇なく狼に飛び乗った
主人を頼むぞ、と一言いわれ、狼はすぐに走り出した
視界がすぐに通り過ぎていく
しかし、それだけ急いでも、抱えた後輩から命は流れ出していく
月の光りに照らされて、血の気の無い顔を余計に主張している





狼は見えてきた忍術学園の塀を躊躇も無く越え、医務室へ走る
医務室の止まった狼から飛び降りると、いつも夏目から注意されてることなんて無視して思いっきり扉を開けた


「夏目!新野先生!」
「っ郷間!?と、御門・・・っ!?」
「危ないですね・・・郷間君、すぐにこちらに!」


ばたばたと新野先生が指示を出して、夏目も動く
俺はその様を見ながら、部屋の隅に座った





深夜の急患





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