もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

嫌な予感ほど当たるもの







夜明け前に帰ってきた長屋
そっと部屋に入って、忍服から私服に着替えると、部屋の隅に寄りかかり、しばし目をつぶった
既に夜は明けかかっているものの、今からならば、きっと一刻くらいは眠れるはず



半刻と四半刻ほど立ったと思われる位に、もそもそと布団が動く音がした
ふっと目を開ければ、先輩が起き上がるのが見える
どうやら起床するらしい
私はそれを見て立ち上がる


「おはようございます」
「あぁ、はよ」


ふわぁと小さくあくびを漏らしながら、先輩は布団を畳んでいた
私は食事でも作るかとかまどの火を入れた


「それで、何か収穫はあったのか?」
「それがなんともいえないのです」


朝ごはんを食べながら、昨晩見たことを話す
すると先輩は少し考えて、俺も昨日の昼間に聞いたんだが、と一言置いた


「最近城の姫の病弱が悪化したらしい」
「・・・・・・城の姫、ですか」
「あぁ、御門が見たのも、姫だったんだろ?同一人物に俺は思えないんだが」


弱ってるところを取り憑かれたのか、まあ、なんにせよ、城に行かなければならないらしい
出来れば穏便に終わりたかったのだが、これではそうも行かないようだ
私は未だ4年になったばかりの卵、大丈夫なのだろうか
そんな思いが顔に出ていたのか、先輩がお前な・・・と呆れたような声を上げた


「何のための6年生だ、もう少し俺を頼れよ、今回の俺の仕事は御門の手助けなんだからな」
「そう、ですね・・・。ありがとうございます」


では、早速今夜にでも一度
そう言って、今日は昼の間に情報を集めることになった




街へ繰り出せば活気のある表通り
甘味屋に入れば、旅人や近所の人など、顔ぶれもそこに集まる話題も様々だ
私は人型を取ってもらった藍と共にその甘味屋の一角に陣取っていた
団子と茶を啜りながら、耳を傾ける
ちなみに蓮には、城に入り込んでその内部を見てくるように頼んである
まあ、入り込むといっても、人型にならなければ普通の人に見えることはないはずだから、普通に見に行っていると言っても過言ではないのだが


「・・・街の住人、所々で気配がするな、薄いようではあるが・・・本命は居なさそうだ」
「そうか・・・ありがとう、藍」


やはり彼女が一番濃かったようだ
ということは、元凶は彼女・・・正確には彼女に憑いたモノなのだろう
やっぱり城か・・・とため息をつきそうになったとき、いきなりさっと寒気が背中を滑り落ちた
今は、特に何もしていなかったはず、それなのに・・・


「・・・蓮?」


何かあったのだろうか
私はかたりと席を立ち、藍もそれに続いて席を立った
勘定を済ませると、心得たとばかりに藍は裏路地に一本入り、先に長屋に戻ってもらう
私も心なし急ぎ足で長屋に戻った

本当に、杞憂ならばいいのに

そう思って居たというのに、帰って見ればそこには今にも消えてしまいそうなほどに弱った蓮の姿があった



嫌な予感ほど当たるもの






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