忍務開始 5人と話した後で、翌日に忍務なのだと切り出せば、あまり良い顔をしなかったものの、暗殺などの忍務ではないのだと説明すれば、気をつけろと言葉にして、送り出してくれた 相変わらず同行する先輩はあまりよくはないが、忍務の上に私情はいらないと教わっているし、そんなに心配はいらないはずだ なのにこの嫌な予感は何だというのだろうか まるで私を嘲笑うかのようにわいてくる不安 陰陽師の勘は当たると言われるだけに無視することも出来ず、万が一に備え、一人でもどうにか出来るよう武具を整えた 指定された城に潜り込むべく、城下を調べると、異様な臭いが鼻をかすめる なにかが腐ったような臭いに、私は眉を顰めた 表通りの活気とは裏腹に、裏に一歩踏み入れば、陰の気が大量に絡み合う死の世界 肉体が朽ち、蝿が飛ぶ 『遥人、これ』 蓮に呼ばれて見た死体は、陰の気に混じって微かに妖怪の気が感じられた どうやら一部を喰われたらしい 肉がえぐられ、骨が見えかかっている 臭いの強さからか、鼻を手で押さえ、先輩は顔をしかめた 「こいつは獣の仕業だろ、そうに決まってる・・・っ」 「いえ、確かに獣も食べてますけどね・・・」 妖怪の気が、どこか可笑しい あまりにも薄すぎるというか・・・ 季節から言って、これくらいの死体なら、死後3日と言うところだろう それならばまだ分かりやすく痕跡が残っているはずなのに、同じ妖怪である蓮じゃないと気がつかないなど余りないことだ そこまで思考を巡らせて、学園長の示すことに気づく 「・・・憑いてるのか」 ぽつりと呟いた言葉は思いの外大きく響いた ふと顔を上げれば、そこにはあまり顔色のよくない先輩の姿 ・・・流石に気に当てられたのだろうか、あまりいい空気とはいえない場所だし 「表通りに戻りましょう」 「・・・あぁ」 言葉数少なく、私たちは表通りへ戻った 裏とは正反対に活気に溢れた街 一筋縄で解決できる問題じゃなさそうだ、と少しだけため息をついた ――――― 路地に転がる死体 戦場でそんなこと日常茶飯事 そのはずなのに、この場所にある死体は"違う" 見ているだけで気分が悪くなる ソレをなんでもないかのように見るこの後輩 いったい何者だというのだ 忍務が始まる前に思っていたのは、何でこんなヤツと一緒にこの俺が忍務をしなければならないのだということ けれど今思うのは、ただ、恐ろしい 表通りに戻るという提案をされて、俺は不覚にも一言しか返すことが出来なかった 俺は最上級生だというのに、後輩、ソレも暗殺実習を初めて受けた4年生に気を使われるだなんて そんな俺に気がついたのか、御門が一言ぽつりと呟いた 「仕方ないです、あの場には陰の気が強かった。陽の気を強く持つ郷間先輩は影響を受けやすいでしょうから」 「・・・よく分からないが、後で詳しく説明しろよ」 「はい、分かりました」 無表情で頷いた彼は、雑踏の合間を縫って歩き始めた 忍務開始 → 戻 |