新しい家 私が彼につれてこられた先は、町の長屋だった がらりとした印象を受けるその場所 けれど、普通には見えないものたちが沢山居座っていた 「何も無い場所だけど、今日から遥人の家だ」 「はい」 「はい、じゃなくて、ただいま」 私はぱちりと一つ瞬きをした そして小さく呟くように「た、ただいま・・・?」と言った 彼は満足そうに笑っておかえり、と返してくれた そして、中から聞こえる大合唱のおかえりの声 沢山の物の怪たちに、私はなんだか嬉しくなった 板の間に上がって座る彼に続いて、私もちょこりと前に座った 「あの・・・」 「うん?」 「なんて、呼べばいいですか・・・?」 私がそう彼に聞けば、少し迷ってから、彼は名前でいいぞ、と言った その言葉に、私は半助さん・・・?と確認するように呼べば、あぁ、と応えてくれる 「えっと、半助さんは、この家にいつも住んでいるのですか?」 「私は・・・見ての通り忍者だから、空けることも多いんだ」 「そうなんですか・・・」 すまないな、と眉を下げて言った半助さんに、私は大丈夫です、と返す だって、半助さんが居なくても、この家はとても騒がしい 彼にとっては、私二人だけだと思っていても、私の目には先ほどからまとわり付いてくる子どもの狐や、座敷わらしなんかが見えている 忍者という人を殺す職業であるのに、悪霊がいないのはきっとこの物の怪たちが彼を守っているからじゃないだろうか、と思うのだ それくらい、物の怪の数が多い 「住む場所があるだけ、私は幸運ですから」 心の中で、この物の怪の数なら、退屈はしないだろうし、と付け足す もちろん、心の声は半助さんには聞こえないから、半助さんは嬉しそうに笑うだけだ 「そういってもらえると、私も気が楽だな」 その日は簡単に雑炊を作って食べてから寝た 布団は一組しかないから、私が板の上で寝ると言ったら、子どもにそんなことさせられないといわれた ・・・なんだか変な感じ 前は既に私は成人していたし、いまは男であるから、そんなに気にしないのに それでも私を優先してくれる半助さんは、とても優しい人なのだということを感じることが出来た 新しい家 → 戻 |