もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

嘘をつかないで







長屋に帰れば、自分の部屋に気配を感じた
・・・誰だろうか
その時戸が開いて、ひょこりと顔を出したのは兵助


「あ」
「・・・?」


私の顔を見て、すぐに中に顔を引っ込めた
その行動の意図がつかめず、私は首を傾げる
とりあえず部屋に入ろうかと足を進めたが、部屋の中にはいるより先に兵助と勘が出てきた
二人は私の手をつかむと、いこうか、といって手を引いた


「どこ行くんだ」
「雷蔵と鉢屋の部屋だよ」


私が行き先を聞けば、何でもないようににこりと笑って勘が答えた
雷蔵と三郎は何か私に用事があるのだろうか?
ならば兵助や勘のように部屋で待っていてくれても良かったのに

二人に連れられ、部屋に入ればろ組の三人がそろっていて
やけに真剣な顔つきの彼らに、何かあっただろうかと考えた
もっともそれは、三郎が言った言葉ですぐに解決したが


「遥人、絶対質問することに正直に本当の事を話してくれ」
「いきなりだな・・・わかった、約束しよう、絶対に本当の事を話すと」


そう切り出した三郎に、私は約束した
三郎は少しほっとしたように肩の力を抜く
そんなに緊張しなくとも、と思ったのだけれど、続いた質問に、私は少しだけ動揺した


「遥人は、私たちに内緒で何をしているんだ?」
「・・・・・・良いものだとは、思っていないんだろう?」
「・・・あぁ」


参ったな、と私は苦笑を浮かべた
今日告げられたのは陰陽師に関連する事だから、別にそこまで血なまぐさい事ではないだろう
・・・けれどその前までのものは・・・まだ殺すことになれない彼らには、早いのかもしれない
それでも、私は先ほど嘘は言わないと約束をした
ならば、話すべきなのだろう
彼らも、私がやっている事が良い事ではないと分かっているのだから、覚悟は、あるはず


「私がしているのは・・・上級生に着いて暗殺の忍務に行くことだ」
「やっぱりか・・・そんな感じだと思ってたぜ」
「ハチが気づくなんて珍しいな」
「血の匂い、たまに遥人からしてたからな」


血の匂いといわれて、さすが生物委員というか、野生的な部分の強いハチと言えばいいのか・・・
これからは気をつけなければならないなと、そんなことを思いながらも話を続ける


「私は実習以外に、上級生と人を殺しに行っている。・・・皆に言わないでくれと頼んだのは私なんだ、きっとまだ実習のときの事、振り切れていないだろうからと」
「それは・・・でも、おれは遥人に隠し事はして欲しくなかった」
「俺も、同じ組で毎日一緒に過ごしてるのにさ。それに・・・振り切れてないのは遥人も一緒、だろ・・・」


兵助の言葉に、私は静かに首を振って否定する
確かに私は人を殺すことには慣れていない
けれど、他の5人と決定的に違うことがあるのだ


「兵助と勘は知っているはず、私が"視える"ことを」
「視えるって・・・どういうこと?」
「私は人には見えざるものが見える。いわゆる、霊感があるってやつなのだけれど・・・私はそれだけじゃなくて、家が陰陽師の家系だった。だから酷い惨状で死んで未練がある人は・・・そのときのまま霊として漂っている」
「つまり・・・酷い光景に、慣れてるって事か」


三郎の言葉に、私は肯定を返した
それに、と私は続けた


「人を殺すということは、それだけ恨みを買いやすい。だからこそ、はじめから強制的に霊を作らないようにしているって言うのもある。まあ、要するに学園によくないものが憑かない様に事前につれてこないための役割、ってヤツだよ」


だから心配することない、と言うも、未だ心配の表情が消えない勘と兵助、そして雷蔵
厳しい目をするのは三郎とハチ
・・・まだ、納得はしていないらしい


「あのな、遥人。私たちは遥人が辛いのに一人で抱え込んでいるのがいやなんだ。いくら酷い惨状を見慣れているからって、目の前で人を殺している光景を見て何も感じないわけない。お前、先生にソレで呼ばれるようになってから、確実に体重落ちただろ」
「オレもそう思う、飯、戻してるとかじゃないか?」
「心配ないよ、私はこうして元気なわけだから・・・「元気なわけないだろ!」・・・兵助」


今にも泣きそうな、そんな表情
ふるふると肩が震えている
ぎゅっと握った拳は爪が手のひらに食い込んでいそうなほど力が入り、白く色が変わっている


「だって、遥人の表情、4年までに比べたら表情が尚の事硬くなってるし・・・、抱きついたりすると前よりも確実に細くなってるの分かるし、顔だってなんか白っぽくなってるし・・・それで大丈夫なわけ、ないだろ・・・っ」
「・・・兵助・・・」
「そうだよ、遥人。おれたちは正直先輩なんて遥人に比べたらどうでもいいんだよ。おれも兵助も、三郎も雷蔵もハチも、遥人だから心配するんだから」


勘の言葉はずいぶんと酷い言い草だが、それだけ心配してくれているということ、なんだろう
私はそんな友人達に、ありがとう、と返した


「でもさ、私はこの学園が、皆が好きだから、少しでも負担は減らしたいんだ」
「・・・仕方ないな、でも、無理はするなよ」
「無理したら叱るからね」
「豆腐料理で一日過ごしてもらうからな」
「じゃ、おれはずーっとくっついてることにする」
「んじゃ、オレは女装実習のときに組むって事で!」
『それは遥人がかわいそう(だろ)』


最後のハチの言葉に、声をそろえて4人が言えば、ひでぇ!と叫ぶハチ
こんなやり取りがとてもいとおしくて、だからこそ守らなければ、となお更思った




嘘をつかないで







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