もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

忍の務め







先生に呼ばれて、ついて行った先は学園長の庵
先生が声をかけてから、中に入る
私も続いて入ると、座りなさいと言われて学園長の前に座った
程なくして庵に現れたのは、6年生の先輩だった


「揃ったの」
「学園長先生、彼は・・・?」


学園長が口を開くと、それを待っていましたと言わんばかりに私を問う声
学園長はせっかちじゃのーとこぼす


「おぬしの隣にいるのは今回の同行者じゃ」
「っな!今回の忍務は難しいものだと聞きました、4年生を同行させるのは危険だと・・・」


驚きを含む声音に、一片の違和感を感じた
後ろに憑いていた由が、私の耳元で囁く


『コイツ、自分は優秀なのに足手まといを連れて行くなんてまっぴらごめんだ!みたいな感情的の気を出してるわよ』


どいつもこいつも傲慢ねーと言いながら、やれやれこれだから人間は、と言うように由は肩をすくめた
まぁ、6年生と4年生、なんて普通はないだろう
学園長は咳払いをすると、落ち着きなさいと6年生に声をかけた
6年生はそういわれて渋々と言った様子で口を閉じる


「今回お主らにやってほしいのは、ある城下街に忍び込み、街の住民および城内の人物を調査することじゃ。これは御門を主体とし、郷間はその補佐として御門を助けること」


私はその言葉に少なからず驚く
6年である先輩ではなく、私が主体とはどういうことなのだろうか?そう思うも、続いた学園長の言葉に、私は納得した


「今回の忍務は普通の忍務ではなく、"御門"への忍務じゃ」
「どういうことですか、私では力が足りないと?」
「そうではなく、御門しか出来ないことだといっておるのじゃ」


口調は丁寧ながら、そのうちに秘めたる納得いかない感情を隠そうともしていない郷間先輩に、私は内心でため息をついた
普通の家が御門を知っているはずがない
貴族の家としても末席に近かったし、陰陽師としても分家であり、本家ほどの知名度はない
それも御門に残るのは私だけなのだ、同年代でなど知るほうが珍しい


「えぇい!おぬしは少しは妥協することを覚えんかっ!とにかく今回の忍務は御門を主体とする!出立は明日、異論は認めん!」
「・・・っわかりました」


学園長が一喝して、先輩はしぶしぶというように引き下がった
帰っても良いと言われ、私と先輩はそろって部屋を出た
長屋の分かれる廊下で、ぎろりと私は先輩ににらまれる
そして低い声で言われた


「4年のお前になにが出来る。・・・俺はお前を認めない」


そう私に言うと、さっさと6年長屋へ歩いていった
私はその後ろ姿が見えなくなるまで佇み、見えなくなると大きくため息をつく
今度の頼まれ事は凄く神経を使いそうだ・・・
くるりと踵を返すと、己の部屋へ戻るべく歩き出した




忍の務め







- 53 -