もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

信じてる







いつも気をつけているけれど、僕は不運委員の一員で
今日もたまたまそこにあった石に躓いて転んでしまった
一緒に歩いていた藤内が心配してくれたけど、咄嗟に手を突いたから、派手に転んだわりには怪我は小さかった
大丈夫だと言ったけど、心配してくれた藤内は医務室に行けと譲らなくて、僕から忍たまの友と筆記用具を取り上げたから、僕は藤内にありがとうと言って、医務室に向かった

失礼しますと声をかけて戸を開けて中をのぞき込むと、座っていたのは御門先輩だけで
その御門先輩の表情は、なんだか泣きそうだけど、堪えたような・・・そんな表情で
こちらに気づいた御門先輩が僕を手招きしたので、僕は素直に御門先輩の前に座った
怪我は?と聞かれて、僕は手を出す
ここに来る前に洗ってきたけれど、少しだけ血がにじんでいた
御門先輩は一瞬だけ、それでも僕がわかるくらいに顔をしかめたのがわかった
今まではそんなことなかったのに、と思ったけれど、ふとある話を思い出した


しってるか?4年生、後10人くらいしか残ってないらしいぜ
えっ、4月はもっといたよね?
なんでも滝夜叉丸に聞いた話だと、4年の実習に耐えられなかった人が学園やめてくんだと


迷子の三之助を見つけて、作兵衛のところへ連れて行く最中の会話
・・・先輩は、4年生だ
もしかして、その実習というのに耐えられなかった?
でも先輩は強いし、そんなはず・・・
ぐるぐると頭の中をいやな想像が回る
ぱっと御門先輩の顔を見上げる
相変わらずのどこか痛そうな表情


「せ、先輩っ」
「・・・痛かったか?」


先輩はすこし心配そうに、僕に聞いてきた
でも、僕はそれにそうじゃなくて、と否定の言葉を返す


「あの、4年生が、沢山止めたって・・・」


きゅっと小さく音を立てて縛られた包帯
顔を上げた御門先輩は、やっぱり泣きそうな顔
先輩は僕を引き寄せると、ぎゅっと少しきつく抱きしめた
その手は、本当に微かにふるえている
ぽんぽんと幼子を宥めるような、そんな動作
気がついてるのだろうか?
自分の表情が泣きそうなことに

「大丈夫だ、数馬」


そういって笑う先輩
ごめんなさい、僕の我が儘なんです
先輩はつらくてきっと学園にいるのがつらいのかもしれない
でも、僕は先輩に居なくなって欲しくないから


「居なく、ならないでくださいね・・・!」
「あぁ」


先輩なら居なくならないって、僕は信じてます



信じてる





暗殺実習について
暗殺実習は、このサイトでは4年生としています
3年では早すぎるだろうし、5年では遅すぎるかなぁと思ったのが一番の理由です
後半の医務室のお話ですが・・・ 似たものを見たことある方もいらっしゃるかもしれません
あっても不思議ではないと思いますので
あえてこのお話を入れさせていただいたのは、伊作か数馬のお話を入れたかったからです
他の夢主のように、苦しむ夢主ではありません
けれど、周りには夢主も無意識に苦しんでいることを感じ取ってもらいたいなと
そういう意味で、数馬は一番適役かなと思ったもので、数馬で書かせていただきました

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