もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

三度目の終わり







静寂が支配する部屋の中で、ことん、と小さく湯飲みを置く音が響いた
あまり表情が浮かばれない
なんたって、4年からは暗殺が伴うものも出てくると、先輩方から言われている
そのための第一関門が、この春にある宿題の結果
行儀見習いの者達は皆出て行く
現に、ここ一週間は、行儀見習いで来年からいないから、と挨拶に来た人も多くいた


「・・・いよいよ、来年から上級生の仲間入りなんだな」
「実感、ないよね」
「でもそのためには、春休みの宿題があるんだよなぁ・・・」


かみ締めるように、三郎が切り出す
少しだけ緊張した面持ちの雷蔵とハチ
兵助と勘も、心なしか緊張している
私はといえば、いつもと変わらない
それは重ねてきた年の功とでもいえばいいのだろうか
流石に前世とあわせて30近くもなれば、落ち着くと言うものだ


「みんななら平気だ、そのために、この3年間がんばってきたのだから」
「そうは言うけどさ、遥人みたいにみんな落ち着けるわけじゃないんだよ」


ちょっと不満そうに勘がそういえば、兵助も小さく頷いた
別に私のようになれだなんて思わないさ、と返してお茶を啜る
おばちゃんの入れるお茶は美味しいな、藍と同じくらい美味しいなんて思いながら、5人の表情を見る


「私たちが3年の間に積んできた経験は、そんなにちっぽけなものか?無駄なことだったか?私はそうは思わない。みんな相応に鍛錬したし、春にでる課題を合格できる力を持っていると思っている。それとも、せっかくここまで来たというのに、4年に上がらないつもりか?」
「そんなわけない!俺は遥人と・・・みんなで4年に上がりたいに決まってる」
「オレ達、だろー?」


兵助の言葉に、付け足すようにハチが笑う
そんな彼らに、私は笑みを浮かべる


「なら、各々力を出し切るだけだろう。私はさようならは言わないぞ、いうのは"また4月に忍術学園で会おう"だ」


その言葉に、5人は頷く
最初に纏っていた、暗い印象は既にない
その瞳にあるのは、既に4年に上がる覚悟だけだ


「さて、私は少し職員長屋に行ってくるよ」


私は湯飲みを返すと、私たち以外誰も居なかった食堂を後にした
まあこれで、4月もまた一緒だろう、とまだ来ない未来の日を思い、笑みを浮かべた




三度目の終わり







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