もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

師走のある日に







年末
新年を迎えるべく慌しくなる世間と同じように、学園も忙しくなる
しかし、新年に帰るべき場所がない私には、新年に実家に帰郷する者たちと比べれ、まったりと過ごしていた
帰る場所がないからと嘆くことはないが
家主である半助さんが帰らないというのに、私だけ帰っても意味が無いのだから


「遥人ー、ちょっといい・・・って、藍も蓮も居るんだね」
「いつも居るよ!見えてないだけー」


ずずっとお茶を啜って蓮の言葉に頷いた藍
どうやら蓮は知っているにもかかわらず、見えないから遊んでもらえないと少しいじけているらしい
全員が全員、私のように視えるわけではないのだと昔言ったというのに・・・
私は小さくため息をつくと、話題を変えるべく勘に顔をやる


「どうかしたか、勘」
「あ、ほら、遥人っていつも帰らないでしょ?それを母さんに言ったらコレを送ってくれてさ」


そういって差し出されたのは深い青の、綿を詰めた半纏
私は少し驚きつつも、それを受け取る


「・・・いいのか?」
「うん、後手紙にさ、"いつも勘右衛門がお世話になっています"って。おれそんなに遥人に迷惑かけてないよね?」
「お世話するどころか私がお世話になっているよ」


だよね、と笑う勘に、私は勘の母上様によろしくとありがとうを伝えてもらおうかと思ったが、少し考えると、薄緑の紙を取り出した


「紙?どうするの?」
「帰る前に一度よってくれないか、せっかくだから勘の母上様に手紙を渡したい」
「わざわざありがとう、遥人。きっと母さんも喜ぶよ」


にこにこと笑い、座り込んだ勘に、私はそうだといいんだけれどな、と返して、藍に勘の分のお茶を入れるよう頼む
どうやら書き終わるまで待つらしい
藍は承知したと言って、急須に茶葉とお湯を注ぐと、戸棚から勘の湯のみを出して、彼にお茶を出す
勘はありがと、藍とお礼を言って、出されたお茶を啜った


「藍の入れるお茶って美味しいよね」
「蓮は渋かったり薄かったりするけれど、藍は上手いからな」
「遥人、酷い!」


さらりと言えば、蓮は流すことなく怒る
だが蓮の入れる茶はお世辞にも美味しいとはいえないので、もっぱら藍の係りだ
同じ兄妹だが、茶の入れ方は由のほうが上だ
むしろ、蓮が出来ないから由が出来るのかもしれないが

簡単な季節の挨拶と、私こそよくお世話になっているということ、半纏のお礼を書きとめ、私は紙を折り勘に渡す
勘は、ちゃんと渡すよというと、湯のみに残ったお茶を飲み干し、それじゃと片手を挙げて自分の部屋に戻っていった


「冬をここで越すのも3度目か・・・もう、半分を越えるんだな」


ぽつりと呟けば、そうだね、と帰ってくる二人の返事
6年という長い学園生活も、もう折り返し
卒業するまで、何事もなければいいな、とこぼす
それは陰陽師としての第六感か、それともただの希望なのか
今の私には分からなかった




師走のある日に







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