もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

私の世界はここから始まる








気が付けば、焼け跡に命あるものは私独り
寄り添う見えざるものたちは在れど、人間は私だけ
私はただ、焼け跡を見つめて



さくり、と後ろで足音がした
私がゆっくりと振り返ると、そこには一人の青年が立っていた


「・・・キミは・・・ここの子かい?」
「―――・・・はい、そうです」


問いかけられたその言葉に、私は肯定した
青年は、そうか、と一つ応えて、私の近くに歩いてきた
周りを囲う見えざるものが唸る
守りたいのは分かるけれど、それは見えざるものに対してしてくれるだけで良いというのに
私はそれらを一瞥すると、小さく、けれど確かにだめだとぴしゃりと言った


「何が駄目なんだ・・・?」
「・・・あ」


そっか、この人、"見えない"んだ
周りは、みんな"見える"人ばかりだったから、普通は見えないのだということを忘れていた
それに、前も私は"見えて"いたから、見えることが普通だった


私は首を振って、彼になんでもないと言うと、その場から立ち上がる
ぱき、と下で木が折れる音がした


「私をどこかに連れて行くの?」
「え?あ・・・あぁ、もしよければ・・・私と来ないか?」


ぽりぽりと頬を掻いて、青年はそういった
真っ黒な着物は、どう見ても闇に生きる者であったけれど、私にはそんなことどうでも良かった
だって、きっとこの人は、闇に完璧に染まれない人
優しさを持ち合わせた、道具にはなれない人だと思ったから
私は伸ばされた手をとった


「私の名前は土井半助だ。キミは?」
「私は、御門遥人、です」
「遥人か・・・よろしくな」


笑った彼の顔は、優しかった




私の世界はここから始まる








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