もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

迷子?のジュンコさん







「来週の合同実技授業の組み合わせ、何時出るんだろうね」
「多分同じ組同士じゃ組ませないんじゃないか」
「それは先生方次第だろう?私たちは誰であれ全力でのぞめばいい」


廊下を歩きながら、私たちは来週に控えた合同実技授業について話していた
今日の授業の終わりにいきなり発表されたのだ
組む相手についてはなにも知らされていないが、ある程度は実力を同じにするように組むだろう事は予測できる
きっと兵助と勘と組むことはないだろうと思いながら、私は二人にそう返した

長屋に向かって3人で歩いていると、何処からか声が聞こえてきた
保健委員が蛸壺にでも落ちて助けを呼んでいるのかとも思ったが、どんどんと大きくなる声に違うと分かる


「誰だろう」
「ジュンコって呼んでるね」


人捜しだろうかなどと言いながら、声のする方を見ていると、建物の影から井桁の制服が飛び出してきた
ジュンコー!と叫ぶ彼に、私はどこかで見た顔だな、と首を傾げる
彼を見ながら記憶を辿る


「・・・ハチのところの一年生か」
「ハチの・・・ってことは生物委員か」
「じゃあ探してるのは虫とか生き物だねー」


必死に探す彼の姿に、探している内に蛸壺に落ちたりしないだろうかと少し心配になった
そのとき後ろに藍が現れた


『遥人、部屋に毒蛇が迷い込んでいる』


蓮に今任せているが、ジュンコと言う名前らしいぞ、と報告してくれた藍に、私は藍だけに聞こえるようありがとうと返した
どうやら、彼を迷子のもとへ届けなければならないらしいまあ、ハチの後輩らしく生き物が好きなようだし、悪い子ではないだろう
小さな命に必死になれることは良いことだ


「そこの一年生」
「え・・・僕ですか?」


通り過ぎていこうとした彼に声を掛ければ、左右にいた二人の驚く気配を感じた
だが、それはあえてなにも言わず、私は彼にそうと答えておく


「私の部屋に迷子が居るらしくてね。良ければその子を部屋に連れて行ってもらえないかな」
「僕、ジュンコを探すのに忙しいので、他の人に・・・」
「あぁ、知っているよ」


私は彼の手を取ると、廊下に上げて、歩き始めた
兵助と勘は三年目ともなればもう私の奇行になれたのか、気にせずについてきた
話を振っていれば、どうやら彼は伊賀崎孫兵というらしい
思っていたとおり生物委員の1年生で、ハチの後輩らしい
あまりハチが好きではないようだったが
曰わく、あまり人と交流するのが苦手な伊賀崎は、ずかずかと自分の領域に入ってくるようであまり良い印象ではないそうだ


「それがハチといえばハチだけどなぁ」
「まぁ、伊賀崎くんみたいな子にはあんまり良くないよね」
「私たちからハチに言っておこう。二つ上だと伊賀崎も言いにくいだろう?」


そう言ってやると、伊賀崎はありがとうございますと軽く頭を下げた
良くできた子だ

そうして私の部屋にたどり着く
障子を開ければ人型をとってジュンコとじゃれる蓮が見えた
ジュンコを見つけた伊賀崎は、ジュンコ!と叫んで、部屋に駆け込んだ
そしてその身体を抱きしめて、心配したんだよジュンコと頬を摺り寄せている
「お探し物の迷子だったろう?」
「そういうことだったんですね、ありがとうございます、御門先輩」


ジュンコを首に巻きつけて頭を下げた伊賀崎に、おばちゃんのご飯が待っているだろうから、はやくいくといいと言って帰らせた
そして廊下から私の部屋を見て、微妙・・・というよりもむしろ警戒した表情を見せる兵助と勘に、私は入ってと一言声をかけた




迷子?のジュンコさん







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