二度目の終わり ことん、と置いた湯のみが音を立てた 「・・・早いねぇ」 「・・・そう、ですね」 顔をあげないまま返事を返した私に、飯塚先輩が苦笑する気配を感じた 後少しで、彼らが居なくなってしまうだなんて、と級友達が泣く中で、なんと私は薄情なのだろうと、丁度1年前に思ったけれど へらりと笑う飯塚先輩 「去年、篠原委員長が卒業したときも、遥人だけは泣かなかったねー」 「薄情だと思いますか」 なくなったお茶を湯呑みにつぎながら、私は問いかけた てっきりそうだと言うのだろうと思っていた私に、飯塚先輩がへらーっといつものように笑って、いや、思わないよーと否定した 「遥人とね、同じだったんだよ、僕も」 「飯塚先輩もですか?」 気になるなら団吉や伊作に聞くと良いよ、と笑う先輩は、どう見ても卒業をしたら血なまぐさい闇色の世界に入る人間だなんて思えなかった それは去年もだったけれど がたがた、と廊下で音がして、きっと誰かの不運かな、と飯塚先輩が笑えば、入ってきたのは伊作先輩だった 「凄い音がしたけれど、怪我したところはないー?」 「えっ、あ、無いです」 「そっかー、良かった良かった」 にこにこと笑う先輩 そういえば去年もこんなやりとりがなかっただろうか? 確かその時は私と伊作先輩と篠原先輩が居て、夏目先輩が転んでから入ってきたけれど ・・・3年生は卒業時期に医務室の前で転ぶのがしきたりなんだろうか? そうだったら私は来年なのか、なんだか複雑だ そんなことを思っていると、私の考えていることが分かったのか、飯塚先輩はへらりと笑った 「心配しなくても遥人なら転ばないよー」 「え?あ、そっか、そういえば去年は夏目先輩がこの時期に医務室前で転んでたもんね」 飯塚先輩の台詞に、ぽりぽりと頬を掻きながら、伊作先輩が苦笑した 二人の台詞に、私は苦笑をこぼす 「遥人は不運じゃないからね」 「・・・どうせ僕は不運ですよ・・・」 にこりと笑ってそう言い放った飯塚先輩に、伊作先輩はむすーっと膨れながら返した 私はどう返していいか分からずに居たが、飯塚先輩が気にしなくていいよと言ってくれたので、私はそうですか、と返すだけだった 春 別れの季節であるがしかし、その一面で新しい出会いも訪れる季節でもある けれど今はただ、別れ行くその姿を目に焼き付けるだけ 去り行く背に、希望でしかない言葉を投げかけて 巣立っていく後ろを、ただ涙を溜めて見守る 私はただ、その後ろ姿に、呟くように、彼らの道筋に小さな幸がおおからんことをと投げかけるだけだった 二度目の終わり → 戻 |