落とし穴と飴玉 いつもの委員会活動、のはずなのだが、今日一緒の当番である伊作先輩がなかなか来ない いくら委員会一の不運小僧だとしても、何とか医務室にたどり着いていたというのに ・・・なにかあったのだろうか 「新野先生、伊作先輩がまだ来てないんですが・・・何か聞いていますか?」 「特には聞いていませんねぇ・・・御門くん、申し訳ありませんが、探してきてくれますか?」 私は新野先生にそういわれ、分かりましたと一つ頷いてから、医務室を後にした 「蓮、藍、伊作先輩を探してくれるか?」 『りょうかーいっ!』『分かった』 後ろについていた蓮と藍に頼み、私は彼らが去っていった方向とは別の場所を探すため、足を動かした ――――― いくら不運だからといって、流石に最近は落ちすぎじゃないかなって自分でも思う そりゃ、不運委員会で一番の不運小僧だって言われてるし、もう3年目だから諦めかけてるけど・・・ 「・・・誰か通ってくれないかなぁ・・・」 ぽかりと切り取られた空を見上げながら、僕は情けなく呟いた いつもなら、留さんが助けてくれたりするんだけど、生憎と今日は用具委員会が忙しいのだと早々に倉庫に行ってしまったし ここはなかなか人が通らないみたいで、気がついてくれる人もいない 「僕ってホント不運・・・」 はぁ、とため息をついた 今日は遥人くんとの当番なのに・・・ 今年は一年生が入ってこなかったから、一番下は今も遥人くんだ まだ一年生から上がったばかりでいくら保健委員を一年経験しているといっても、まだ知識は足りてなくて、手先は器用だけどたまに危なっかしいところがある だから新野先生や僕ら上級生が教えたりとかしてるんだけど・・・ 蛸壷のせいで逝くのが遅くなってしまったから、きっと今日はあんまり教えられないんだろうなぁ・・・ そうやって落ち込んでいると、不意に影が出来た 僕が上を見上げると、そこには遥人くんの姿 「先輩、ここにいたんですか」 「えっ、遥人くん?」 「ちょっと待っててください、今誰か呼んできます」 吃驚して名前を呼べば、少し表情をやわらかくした遥人くんが、そう言って去っていった ここはあんまり人が通らないのに、どうして見つけられたんだろう・・・ そうは思いながらも、助けに来てくれたということに、僕は嬉しくなった ――――― 『遥人、いたぞ』 「本当?ありがとう、藍。どこにいた?」 伊作先輩を探していれば、見つけたらしい藍が教えに来てくれた 藍は案内すると言って僕は藍についていった 少し歩けば、そこはあまり人が通らない場所で、地面にぽっかりとあいた蛸壷に、作ったのはきっと綾部なんだろうと思いながら穴を覗き込む 見えた萌黄の制服を着た茶色の毛、伊作先輩だ 「先輩、ここにいたんですか」 「えっ、遥人くん?」 「ちょっと待っててください、今誰か呼んできます」 こちらを見て驚いたように私の名前を呼んだ伊作先輩の姿に、私だけで彼を助けることは出来ないと判断し、誰かを呼びに行くべく、私は穴を離れた 少し歩けば、用具委員の四年の先輩がいたので、声をかける 「先輩、少しいいですか?」 「ん、どうした?」 「あの、三年の伊作先輩が穴に落ちてしまって、私じゃ助けられないので、助けてもらえませんか」 私が頼むと、また穴あいてんのか、と苦笑しながら、私の頭をぐしゃぐしゃとかき回し、案内してくれと言われたので、私は伊作先輩の落ちた穴のある場所に案内する 道中聞いた話では、今日の用具委員会は学園内にあいた穴を埋めることらしく、丁度良かったそうだ 用具委員の先輩は皆後輩好きで、後輩には甘いのだと伊作先輩の同室で友人である留三郎先輩に聞いていたが、そのとおりだった 「伊作先輩」 「おーい、善法寺、大丈夫か?今引き上げるから手伸ばせー」 「あ、ありがとうございます、先輩」 伊作先輩を引き上げてくれた先輩は、きにすんなーと笑うと、委員会がんばれよ、と私と伊作先輩に懐から出した飴玉をくれた 落とし穴と飴玉 戻 |