もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

私の世界にさようなら







「姉上!っあねうえぇぇぇ!!!」


私は可愛い弟の前で、喰われた



私はかの有名な陰陽師 安倍晴明の孫娘だった
有名なおじい様、優しいお父様とお母様
頼れる二人の兄と、可愛い一人の弟
そしておじい様に仕える神将と、やんごとなき理由で我が家に暮らしていた藤原のお姫様

幸せだった、とても


私は藤の姫と同じように見鬼の才が強かった
それは、おじい様に男だったならばと言われるほどに
だから、私は貴船の神に仕える巫女になろうと思っていた
貴船の神は弟を気にかけて下さっていたから

けれど、見鬼が強いと言うことは、怪に狙われやすいと言うことで
だからこそ、余り安倍家からは出ないようにしていた
ただ、貴船の神のもとへ行くと言うことは、外に出るということ
可愛い弟が、おじい様に頼まれたのと、自分も心配だからと一緒に来てくれたのだけれど
死ぬ定めというのは、分かるもののようで、屋敷を出るときにふと悟った
だから、悲しくはあっても怖くはなかった

それが定めならば

私は所詮、神の掌で踊る偶像にすぎないのだから



そうして、私は弟の目の前で、怪に喰われた
私を呼ぶ声に、心の中でごめんなさい、と謝る言葉は、届くことなく・・・



私の世界にさようなら






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