もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

衝突、そして







「お前、ろ組なのにい組とばっかりつるんでるってホントかよ」


ある日、同室の子が教室で、リーダー格の子に襟を掴まれてそういわれた
いつも狐の面を被った同室の鉢屋三郎は、ここ1ヶ月の間ずっとろ組で一人ぼっちで、同室の僕とも殆ど話してくれない子だった
一人がいいのかなって思ってたけど、ずっと友達になりたいと思ってたのに、その子が一番最初に友達になったのはろ組の誰でもなくて、い組の子
それも、い組で孤立してて、高嶺の花だって言われてる御門遥人とその友達で
ずるいって思ったんだ
だって、僕も仲良くしたかったのに
なんだか、ずっと気を使ってる僕が馬鹿みたいに見えた


「何とかいえよ、鉢屋!」
「お前たちには関係ないだろ」


声を大きくして鉢屋にそういったリーダー格の子に、ただ一言関係ないと言った鉢屋のその言葉
お前"たち"の中に僕も入ってるんじゃないかって、そう思ったら、なんだか悲しくなった


「お前はろ組だろっ!あんな無表情なよくわかんねぇい組のヤツとなんか付き合うなよ!」
「遥人を悪く言うなっ!」


今までどうでもよさそうだった返答が、御門の事を出された瞬間に変わった
それくらい、鉢屋にとっては御門って大事なんだ
同室の僕は全然相手にしてくれなかったのに
そのとき、教室の障子が開いた


「まったく、私の名前が出てきたと思ったら・・・」


ひょこりと顔を出したのは渦中の御門だった
ろ組の有様を見て、彼は少しだけ呆れた声音で失礼するよと言って、教室に入ってくると、三郎の下へ歩いていった


「三郎、お前はもう少し、周りを見なさい。殻に閉じこもってばかりでは理解は得られないよ」


どれほど孤立しているのか、分かっているのか?と鉢屋の頭を撫でながら話す様は、さながら弟に言い聞かせる兄のようだ
ぼうっとその様子を見ていた僕だったけれど、不意に御門と目が会った気がした


「確か、三郎と同室の・・・不破、だったか・・・?」
「え、僕の事知ってるの・・・?」
「あぁ、三郎からね、少々迷い癖があるけれど話を聞いている限りでは出来た子だと思っていたんだ」


無表情だけれど、雰囲気がやわらかいその物言いに、僕は嬉しくなった
そして、鉢屋が少なからず僕の事をちゃんと見てくれているのだということにも
当の鉢屋はそっぽを向いているけれど


「三郎は素直じゃないし、結構天邪鬼なんだ、だから是非仲良くしてあげてくれ」
「なっ、遥人、私は天邪鬼じゃないっ!」
「そういうところが素直じゃないし天邪鬼なんだよ。とりあえずろ組で友達を作りなさい、三郎。私たちがいつも一緒にいられるわけじゃないんだからな」


独りよがりでは三郎のためにはならないよ、という言葉に、鉢屋の雰囲気はむすーっとしたものになった
御門の前だと分かりやすい鉢屋の雰囲気
御門ってなんだか冷たいイメージがあったけれど、でも鉢屋の様子からしてそんなことはないみたい


「あの・・・僕と友達になってくれる?」
「・・・仕方ないからなってやる」


御門に進められて言った言葉は、ずーっと僕が言いたかった言葉で
返事をした鉢屋の耳はなんだか心なしか赤くなっていて、僕は嬉しくなった
その様子に御門も安心したのか、教室を出て行こうとする後姿が視界の端に映った
いつの間にという気持ちがあって、僕は彼を呼んだ


「御門っ」
「・・・?何か私に用事か?」
「あの、出来れば僕と友達になって欲しいんだけど・・・」

御門を引き止めると、ろ組のクラスメイトたちの視線が突き刺さったけれど、これを逃したらなんだか御門と友達になるのがもっと遅くなってしまうような気がして、僕は迷わずに言った
御門はぱちりと一つ瞬きをすると、ふっと雰囲気がやわらかくなって、あぁ、よろしくと返してくれた




衝突、そして









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