もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

喧嘩







篠原先輩に頼まれた用事を終えて、私が居ない間に不運の連鎖でごちゃっとした医務室を片付け、伊作先輩を食満先輩のところに連れて行って、私の委員会は終る
伊作先輩を連れて行くのは、最初は無かったんだけれども、あまりの不運具合に食満先輩から自分のところに連れてきてくれないかと頼まれたのだ
不運




そうして私が伊作先輩を送ってから、兵助と勘が待つであろう食堂へ向かうと、その入り口で争う声が聞こえた
なんだろうか
首をかしげながら食堂に入れば、井桁の制服を着た子どもが言い争っている
それがまったく関係のない人ならば、私もあまり気にしなかったのだけれど


「・・・兵助と、勘?」


言い争いをしていたのは、兵助と勘、それから、確かろ組の人物
兵助も勘も、ろ組とかかわりがあったのだろうか・・・?
いくら勘の交友範囲が広いとは言え、ろ組と仲が良いのは見た事がなかった
本当に、私が見た事がないだけかもしれないが・・・
とりあえず、今のままだといつ手が出てもおかしくはなさそうなので、とめるべく近づいた


「何で言い争ってるのか知らないけれど、場所分かってる?」
「あ、遥人!だってコイツが・・・!」
「お前達が悪いんだろっ!」


兵助に突っかかる狐の面を被った子
その姿に、そういえば朝よく見かけたなと思い出す


「とりあえずここだと他に迷惑だから、場所を移したほうがいいし、おばちゃんが怒る」


私はとりあえず一番の原因だと思われる二人の手を掴むと、勘、と一言名前を呼んで食堂を後にした
・・・夕食は抜きかな
後ろから勘の足音が聞こえるのを確認しながら、私は小さくため息をついた








案内したのは長屋にある私の部屋
一人部屋だから、他の人に迷惑をかけないし


「それで、何があったの」


私は勘にそう聞いた
主観的なものは狐の子と兵助に聞けばいいけれど、それは全体を知ることにはならないからだ


「あ、ええとね、おれと兵助は遥人が来るまで席を取って待とうと思ってたんだけど、そしたらその子がつっかかってきたんだよ」
「私は悪くない」


むすりとした雰囲気をかもし出す狐の子の言い放った言葉に、兵助が膝を立てて言い返そうとするのを、私は手で制した


「兵助、ダメだ」
「でもっ」


私は尚も何か言おうとした兵助に、無言で首を振る
兵助は何か言いたそうにしながらも、素直に座りなおした


「まず聞きたい。君の名前は?」
「鉢屋三郎」
「そうか、じゃあ鉢屋、どうして食堂で喧嘩しようとしたんだ?」


私は狐の子、改め鉢屋をじっと見てそういった
鉢屋は言いづらそうに身じろぎするが、正座した足に乗せていた拳をぎゅぅっと握ると、口を開いた


「だって、御門は一人で、私と一緒だったのに」
「鉢屋もいつも一人だったね」


私が言えば、こくんと頷いた
どうやら彼は、私に同族意識を抱いていたようだ
私は苦笑すると、彼の頭をくしゃりと撫でた


「仲間が欲しかったなら言えばよかった。私は鉢屋を嫌いではないのだから」
「・・・本当?じゃあ、私と友達になってくれる?」
「もちろん、よろしく三郎」


私がそう言えば、鉢屋改め三郎は私に飛びついてきた
ぎゅぅぅときつく締め付ける腕に、痛いよ、といえば、素直に腕の力が抜ける
なんだか弟のようだな
三郎を見ながら、私はそんなことを思った




喧嘩








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