もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

一匹狼なんかじゃない







気になるクラスメイトが居る
名前は御門遥人
いつも一人で外を見てるか、本を読んでるかしてる人
俺もよく綺麗な顔だと言われてたけど、俺よりもずっと綺麗な顔立ちをして
ぱっと見、女みたいな顔
同じ部屋の勘ちゃんは御門と仲がいいけれど、俺はそうじゃない
でも、勘ちゃんとたまに話すときの御門の顔は、いつも一人でなにかしてるときよりも心持穏やかで
勘ちゃんとの仲の良さが、なんだか羨ましく思えた
・・・だから、それを勘ちゃんに言ってみたんだ


「兵助、遥人が気になるの?」
「・・・うん」
「そっか」


勘ちゃんはにこりと笑みを浮かべ、良かった、と一言漏らした
俺にはその言葉の意味がいまいちよく分からなくて、首を傾げる
そんな様子に、勘ちゃんは苦笑いを浮かべた


「だって、遥人の事、みんな疎遠だからさー。遥人、凄く普通なのに」


だから兵助が気になるって言ってくれて嬉しいんだと勘ちゃんは笑った
正直、御門は綺麗過ぎて近づきがたいっていう、高嶺の花みたいな印象があったから
勘ちゃんは凄いって思ってたけれど、そうでもないらしい
ただ、俺達クラスメイトが勝手な虚像を作って近寄らなかっただけなのだと


「勘ちゃん」
「うん?」
「俺、御門と友達になる」


そういえば、勘ちゃんはありがとう、と笑った






数日経って、委員会決めが終ったあとの教室
相変わらず一人の御門が窓際から外を見ていた
俺はこぶしをぎゅぅっと握ると、御門に近寄る


「っ御門」
「・・・久々知?」


御門が振り返って、俺の苗字を呼んだことに驚いた
だって、こっちに興味なさそうだったのに、俺の事、知ってた
無表情のままだけれど、首を傾げる御門に、俺はちょっとだけ戸惑ったけれど、友達になるのだと勘ちゃんに宣言したし、俺も友達になりたいと思ったんだと思い直す


「俺と、友達になってください!」
「・・・私、でいいの?」
「御門だから、俺は友達になりたい」


あまり変わらないその表情に、ひそかに驚きの感情が混じる
そして、戸惑いも
そこから分かった、御門の事
表情が無いわけじゃなくて、その大きさが小さいだけなんだって事
一匹狼になりたいわけじゃなくて、ただ俺達に遠慮してただけなんだって事
御門は俺の言葉に、嬉しそうに、笑みを浮かべた
それは本当に少しだけの変化だけれど、俺にとっては、凄く特別な変化


「遥人って、呼んでもいいか?」
「ああ、私も、兵助と呼ばせてもらうよ」


よろしくと言い合って、晴れて友達
勘ちゃんが来て、良かったね、と笑った
そんな勘ちゃんを見て、遥人がありがとう、勘、と伝えた


「勘が、兵助の事後押ししてくれたんだろう?」
「遥人には分かっちゃった?」
「勘も、兵助も優しいな」


友達になってくれて、ありがとう、二人とも
そう言った遥人に、俺も勘ちゃんも、こちらこそ、と笑った




一匹狼なんかじゃない








- 13 -