もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

不運と先輩と私







"見えない"事を利用して、蓮と藍に押さえてもらったりしながら、自分よりも大きな男たちを気絶させていく
そうしてしばらく後には、そこに立っているのは私と、助けてくれた少年だけになっていた


「ここから離れよう」
「っあ、うん」


私は少年と早足にその場を去った





―――――





勇気を出して綺麗な子を庇うために飛び出して
声を上げたのに、結局大人の男たちを倒したのはこの子の方が多かった
僕は忍者の卵なのに、情けないなぁ
そう思ってため息をついた
しばらく歩いてから、男の子は僕のほうを見た


「改めて、さっきは助けてくれてありがとう。私は御門遥人、あなたは?」
「僕は伊作、善法寺伊作だよ」


御門くんはよろしく、と頭を下げた
僕も慌ててよろしくね、といえば、薄く浮かべられた笑み
その笑顔がきれいで、僕は男の子だって分かっているのにドキリとしてしまった


「善法寺さんは、どこへ?」
「え、あ、僕は・・・」


忍術学園だと答えようとして、僕は忍術学園が一応あまり人に知られてはいけないのだということを思い出す
そしてふと疑問に思った
何故、彼は僕によろしくと言ったのだろうか、と



「・・・あの、勘違いだったら忘れて欲しいんだけど・・・」
「その様子だと、善法寺さんも忍術学園に?私も今年入学ですから」


気にせずに話してくれていいですよ、と言う御門くんに、僕はほっとした
一つ年下のわりに、やけにしっかりとした物言い
僕は去年こんなにしっかりとしていただろうか?
去年の今頃を思い出して、もっと子どもらしかったと自分の過去に感想を持った


「今年入学って事は、御門くんは僕の後輩になるんだね」
「あ、年上でしたか・・・」


それは失礼しました、と頭を下げた御門くんに、僕は慌てて首を横に振って気にしないで!と言った
むしろ、なんだか彼に先輩と呼ばれるととても違和感がある
こう、なんだか年上と話しているような・・・


「そうですか?でも・・・「僕が良いって言ってるんだから、気にしないで」・・・わかりました」
「あ、あと・・・遥人くんって呼んでいいかな、僕のことも伊作でいいから」


僕がそう彼に提案すると、少しだけ虚をつかれたように一つ瞬きしたけれど、分かりました、伊作先輩、と了承してくれた
初めて出来る後輩に、僕はなんだか嬉しくて
出来れば同じ委員会になってくれるといいなぁと思った
・・・まあ、不運委員会って言われてる保健委員会だから、しっかりしてそうな遥人くんには無縁なのかもしれないけれど・・・





―――――





道中を共にすることになった彼、伊作先輩は、とてもおおらかで優しい人だった
ただ、気になったことといえば、彼がやけにこう・・・不運というか・・・
見ているこちらが気の毒になるほどに、何かしらあるのだ
それはなんでこんなところにあるんだろうかと疑問に思うところにある穴に落ちたり(別に手の届く範囲だったので引き上げた)
獣の糞に足を突っ込んだり(そのときは丁度近くにあった川で足を洗うことにした)
足を洗っていたら体制を崩して川に落ちそうになったり(服を掴んで間一髪のところで落ちるのは免れたけれど)



そんなこんなで、学園につく頃には伊作先輩はぼろぼろで
逆に無傷な私が申し訳ないくらいだった



「・・・大丈夫ですか?」
「ごめんね・・・」


どこか落ち込んだように謝った伊作先輩に、私は気にしないでくださいと声をかけた
そして中から伊作!という声
どうやら伊作先輩の知り合いらしい


「あ、留さん」
「あ、じゃないだろ、お前が一番最後だぞ、まったく・・・」


彼は、僕に一言、こいつのことありがとなと言って、伊作先輩を連れて行こうと手を引く
僕は、もう心配する必要は無いんだなと思いながら、彼らを見送る
けれど、伊作先輩は手を引く彼を引き止めて、僕に向き直る


「遥人くん、ありがとう。僕保健委員なんだ、だから、もし良かったらきてね!」
「はい、ありがとうございました、伊作先輩」


またね、と手を振る彼に、私も手を振り替えして、彼らは去って行った





不運と先輩と私








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