もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ






side:三郎


前から小松田さんが書類を持って歩いてきた
私は嫌な予感をひしひしと感じていた
それは隣の雷蔵も同じだったようで


「・・・早く行こうか?」
「そうだな・・・」


そういいあって、早々に小松田さんの隣を過ぎようとしたとき、小松田さんは盛大にすっころんだ
どてんといい音がして、紙が飛ぶ
・・・これは、手伝わないといけないのか・・・
そう思って私はため息をついた、隣の雷蔵も苦笑している


「いてて・・・」
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう、不破くん、鉢屋くん」


また吉野先生に怒られるなぁと呟きながら、小松田さんは立ち上がって、私が集めた書類を受け取った
そして私の顔を見ると、あ、と声を上げた


「そういえば、鉢屋くん」
「なんですか?」
「さっき学園長に用事があるって来たお客様が、鉢屋って人だったんだけど、鉢屋くんの・・・「その人の名前は!?」わぁっ・・・二葉さんって人だったよ」


それを聞くと、私は学園長の庵に向かって走り出した
後ろで雷蔵が私を呼ぶ声がしたけれど、私は振り返らなかった

―――――
side:二葉



「・・・・・・」


ふと学園長先生から視線をそらした
学園長先生が、どうした?と声をかけてくださり、私は何でもありません、話の途中で失礼しましたと笑った


「それにしても、この羊羹は旨い!」
「ありがとうございます、そういってもらえると持って来た甲斐がありますよ」
「ここら辺のものじゃないじゃろう?」
「えぇ、備中での仕事の後、街に行きましたら良い小豆が売っていましてね、自作をしてみたのですよ」


学園長はなんじゃと!とおどろいて、これを二葉が作ったのか、凄いのーと褒めてくださった
と、言っても、さすがに私も男の形をしていても、女だからな・・・それくらいできなければならないかと思ったんだが・・・
・・・学園長先生は、確か知っていらっしゃったはず・・・


「おや?この気配は・・・」
「鉢屋じゃのぉ・・・どこから情報を仕入れてきたんじゃ、あやつは・・・」
「ふふ、いいじゃないですか、三郎に会うのは実に5年ぶりなのですよ」


そういったとき、庵の障子がスパーン!と音を立ててあけられた明けられたそのむこうには、誰かの顔を借りた、三郎が立っていた


「〜〜〜〜!二葉兄上えぇぇっ!!」


顔を腹に押し付けて、三郎が痛いくらいに抱きついてくる
私は苦笑して三郎をなでつつ、学園長先生に、すみません、と言った


「構わん、良いものが食べられたしの、また持ってきてもらいたいくらいじゃ」
「お口にあったようでしたら良かったです」


それでは一度失礼します、と頭を下げた私は、三郎を腰に引っ付かせたまま、庵を後にした




可愛い弟







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