陸壱 「さすがに疲れただろう、今日は泊まって、明日出発しなさい」 どうせ飛び出して来たんだろう、三郎といって意味ありげににやっと父上が笑った 三郎が言葉に詰まる ・・・飛び出してきたのか・・・ 例え鉢屋で忍としての教育を受けたとは言え、仲間と過ごせる時間は何にも代え難いもの そう思えば、何だか三郎に悪いことをしてしまったという気になる 「分かりました、そうします」 「ん?何言ってるんだ二葉」 返事をしない三郎に変わって、私が返事をすれば、父上が不思議そうに言った ・・・私の方が不思議だ 「二葉、お前は今しばらく残って、鉢屋衆への報告に出なさい。三郎は学校があるが、お前はもう少し居られるだろうからな」 「・・・早くないですか?」 「逃げ道は無くして置くに限るだろう?」 父上が悪気もなくそう言った 一度言い出せばなかなか意見を変えない父上だ 仕方ないし、残るしかないかとため息をついた 「三郎、後ほど学園長への文を書きますので、戻ったら渡してもらえますか?」 「それは構わないけどな・・・早く戻ってきてくれよ」 「それは父上次第ですね」 不満そうに了承した三郎に、くすりと私は笑った 「と、言うわけで、三郎たっての希望でな、二葉を嫁がせないことにしたんだ」 「それは俺にとっても吉報ではありますが・・・」 微妙な顔をしてそういった壱槻兄上に、私は苦笑した そりゃ、妹と弟が婚約だなんて微妙だろうな 「・・・父上、二葉って最初は長子が異性同士なら婚約させるかと相談されていたのでは・・・?」 「なんだ、壱槻。お前二葉を好きだったのか」 「違いますよ流石に」 「即答は悲しいですよ、壱槻兄上」 父上と私のにやりとした顔に、壱槻兄上はげっそりとした表情を浮かべた 壱槻兄上は大きなため息をつく 「とりあえず、二葉と三郎の婚約に俺は反対しません。二人とも大切な妹と弟ですからね。まあ、二葉についてはやっと名実共に妹になりますが」 「私はそういってくれる兄上が大好きですよ」 「三郎以外にそういうのは珍しいな、二葉」 私は兄上の台詞に、おやと驚いた顔をする 「壱槻兄上も私は好きですよ?別に三郎だけが大切なわけではありません。兄弟だから二人とも大切なんです」 「・・・お前は・・・またさらりと凄いことを・・・」 顔に手を当ててため息をつく壱槻兄上に、土井先生を見た気がした ・・・さしずめ私は一年は組ですかね そうおもってくすりと笑った "兄妹"だからこそ → 戻 |