もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

伍肆







次の日の朝
朝早いにもかかわらず、数人の教師が門の前に居た


「見送りなんてしていただかなくても・・・」
「あたしたちがやりたいんだから」
「気にしないでください」
「あたしは二葉くん・・・二葉ちゃんだったわね、二葉ちゃんが居てとっても助かったもの。お見送りさせて頂戴よ」


私は学園の暖かさに、ここに居てよかったと思うことが出来た
たとえ偽りの姿をした私でも、私を"私"だと言ってくれる人がこんなにも居る
そしてこの場所は確かに私の帰る場所だと思うことが出来た


「・・・ありがとう、ございます・・・っ」


涙は流さない
それをしたら、きっと今の私は崩れてしまう気がするから
今はただ、すべて堪える
そうすればきっといつか、この日々が確かに私にとってとても大切で、暖かい過去であったといえる日が来るから


「お世話に、なりました」


私はそう言って頭を下げると、学園の門をくぐった
もう、振り返らない、振り返れない
振り返れば、私はその暖かい場所にすがり付いてしまいそうになるから



―――――
side:雷蔵



カーン、と鐘の音がなる
朝食を知らせる鐘


「三郎、行こう?」
「・・・あぁ」


いつもよりも表情が暗い三郎を連れて、僕は食堂へ向かった
その場所には二葉さんが居て、それを見て三郎が駆けていって、三郎が怒られて
そんな日常が、まだあると、そう思っていたのに


「・・・二葉、は・・・?」


ざわり、と食堂は落ち着かない
厨房を覗いても、動く影は一人、おばちゃんだけ
二葉さんの姿は無い
僕の耳に届いた三郎の声が、悲痛だった






どこにも居ない









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