もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

伍壱







「先ほどのこと、ゆめゆめわすれぬよう」
「・・・分かっています」


門まで見送れば、最後にかけられた言葉はどこまでも家のための言葉
私は彼女の姿が見えなくなった後、ため息をついた






食堂に戻ればなにやら聞きたそうな雰囲気ではあったが、私はあえてそれを無視した
今の私はきっといつものように受け答えできないから


「おばちゃん」
「あら、二葉くん・・・随分と早かったのねぇ」


私はおばちゃんに苦笑を返して、返却された食器を洗い始めた
おばちゃんは察してくれて、その後、先ほどの私と椿様の話題について触れることはなかった




―――――
side:三郎




戻ってきた二葉はどこかいつもと違っていた
・・・母上と何かあったのか
母上は二葉を昔から毛嫌いしていたから


「二葉さん、どうしたんだろうね・・・」
「・・・後で聞きに行く」


雷蔵にそう言えば、雷蔵は私がそう言うで後あろうことが分かっていたのか、笑っていってらっしゃい、と言った



食事の後
私が二葉の部屋に向かおうとすると、二葉が部屋ではなく別の場所へ向かう後ろ姿を見つけた
いつもなら終わるとすぐ部屋に戻るのに、何故だろうか
静かに後をつけて、着いたのは学園長の庵だった
・・・何か母上から言いつけられたのだろうか
話を聞くべく、私は庵の床下に潜んだ





―――――
side:二葉




学園長の庵に着くと、私は中に声をかけた
入室許可を貰うと、失礼しますと声をかけ、学園の前に座る


「どうしたんじゃ、いきなり」
「突然申し訳ありません、学園長。先ほどつ・・・母上が学園を訪ねてきまして、私の・・・その・・・縁談が決まったと」
「・・・普通はおめでたいことじゃが・・・おぬしには違うようじゃのぉ」


学園長は私を見てそう言った
私も頷く


「正直、女で家庭に入るより、男として鉢屋の忍の一人としていたい気持ちが強いです」
「ならば何故縁談なんじゃ、ことわれなかったのか?」


私は苦笑した


「私は養子ですから、立場が弱いのです。いくら立場上鉢屋当主の子供だからといって、兄上や三郎のようには居られません。それに、母上には嫌われていますから、早く鉢屋から追い出したいのでしょう」
「・・・複雑じゃな」
「それもまた、仕方のないことです」


そう言って、私は諦めたように笑った






知らせの後













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