もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

肆漆







「・・・二葉さん?」
「ん・・・あぁ、いえ、皆さんおかえりなさい、そしてお疲れ様でした。疲れているでしょうから、部屋に戻って休んでくださって大丈夫ですよ」


門は私が閉めますから、と笑えば、くのたまの子たちはお願いしますと残して戻っていった
私は綾部くんと伊賀崎くんにも、ほら、戻りなさい、と声をかける
二人はなんだかどことなく心配そうに私を見て、けれど何も言わずに部屋に戻った


「・・・二葉・・・?」
「三郎も、戻ったほうがいいですよ。きっと雷蔵くんに気がつかれたら心配されるでしょうから」
「そんな不安定な二葉を残してなんていけないだろ・・・」


早口に、三郎を帰そうとそういえば、やはり様子がおかしいことに気がついていたのだろう
その言葉をかけられて、私は柄にもなく一瞬動きを止めた



「・・・何のことですかね」
「二葉・・・!」


それでも知らん振りを続けて、門を閉めて部屋に戻ろうとすれば、ぱしりと手を取られ、引き止められた


「・・・三郎」
「いやだ」


私は小さくため息をつく
そして後ろを振り向かずに言った


「・・・幼い頃を思い出しただけです。気にしないでください」
「幼い頃って・・・」
「三郎には関係のない話ですよ。だから気にせずとも良いのです」


早く部屋に帰りなさい
もう一度そういって、私は三郎の顔を見ることなく歩いていった



―――――
side:三郎



するりと掴んだ手を抜けて、二葉は私を置いていった痛みをこらえるような、そんな表情をした二葉
あれほどわかりやすいというのに、なんでもない、気にすることないと私を踏み込ませようとしてくれない
私は二葉のことを全て知りたいのに


「二葉・・・」


読んだ名前は、届かずに消えた



それは拒絶にもにて








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