もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

肆伍







「おや、三郎、お出かけですか?」
「あぁ、天女様を含めて三人で行くんだ」
「・・・苑歌と千鶴が動き出しましたか」


三郎のセリフにすぅっと目を細める
三郎達からすれば"やっと"という思いもあるのだろう
だが、私からすれば少々急いでいると感じられる部分もあった
しかし、まあ私が見方につくという部分を彼女達は分かっているから、それを考慮してなのだろうということは伺える


「行くならこれをもっていくといいですよ」


ぽいっと渡した1つの瓶
それを危なげなく受け取った三郎はそれを見る


「二葉、これは・・・?」
「万が一、ですが・・・まあ、睡眠薬のようなものです。嗅がせるだけで一発ですよ?」
「地味にえげつないもの作ってるんだな・・・」


少しだけ格好を崩して三郎はそういった
私はそんな三郎に笑った


「まあ、元保健委員長ですよ?伊作くんだってそれくらいやってるでしょうし・・・あぁ、もし使わなければ伊作くんに渡してあげてください。飲むときの味はすっっっごく苦くしてありますから」
「・・・なに混ぜたんだよ・・・」
「ふふ」


私はただ、それを笑って誤魔化すだけだった





―――――
side:三郎



結果として、二葉から貰った眠り薬は使わなかった


「善法寺先輩」
「ん・・・どうしたんだい?鉢屋」


善法寺先輩に瓶を差し出して、私は言った


「これを、兄上が」
「・・・これは?」


不思議そうに私が持った瓶を見つめる
それに一言、眠り薬です、と返した
するとあぁ、と納得したように彼は苦笑した


「二葉先輩のか・・・相当強力なやつだって言ってなかった?」
「言ってました」
「うん、だろうね。先輩は変わったものを作るのが大好きだったから・・・」


睡眠薬って飲みやすいように苦くしないんだよ、と笑った
渡されたときに二葉は「すっっっごく苦いですよ」と言っていたのを思い出す
・・・なるほど、確かに"変わったもの"だ


「それじゃ、これは貰うね、ありがとう」
「はい、確かに渡しましたよ」


私は一礼すると、善法寺先輩に背を向けた
そして歩き出そうとしたときに後ろから声をかけられる


「あ、鉢屋」
「なんですか?」


振り向いて答えると、見えた苦笑の顔
そして飛ばされた矢羽音


(二葉先輩に、ご気分が悪くなったときは遠慮せずに医務室に来てくださいね、と伝えてくれ)
(それはいいですが・・・なぜわざわざ矢羽音を?)
(二葉先輩は女性だろう?・・・保健委員を何年もやってるとね、さすがに気づくよ。一年生じゃ気づかなかっただろうけど)


私はきっと驚いた表情をしたんだろう
苦笑しながら、善法寺先輩は理由を言ってくれた
・・・まあ、別に二葉が好きだというわけじゃなさそうだし、問題ないだろう
私は分かりましたと頷くと、今度こそ善法寺先輩に背を向けて歩き出した




性質の悪い薬








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