もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

参漆


40後 p45




あの日私が蛸壷の中で泣かせた綾部くんは、事あるごとにちょこちょこと顔を出すようになった
・・・ただ、なぜか三郎の視線が半端じゃないくらい痛いんだが・・・


「二葉さん」
「あぁ、綾部くん、いらっしゃい、どうしました?」
「特に用事はないです」


ひょこりと縁側に居る私の隣に現れて後ろからくっつかれた


「綾部くん?」
「・・・二葉さんって、なんだか安心します・・・」


言葉と一緒に、すぅっと寝息が聞こえた
・・・どうやら私の背中にもたれたまま寝たらしい・・・少しだけ重い
そのとき、気配を感じた


「・・・三郎?」
「兄上、なんで綾部が・・・?」
「・・・安心するといわれてそのまま眠ってしまったんですよ・・・三郎も寝ますか?」


少しだけ恨めしそうな顔をして綾部を見ていたので、私はくすくすと笑って三郎にぽん、と膝を叩いて言った
すると、三郎は少し嬉しそうにしていそいそとこちらに近づき、ごろりと横になった
もちろん、頭は私の膝の上だ


「日が暖かいから絶好の昼寝日和というものです」
「兄上が一緒に居てくれれば、それだけで私は嬉しい」
「ふふ・・・そんな言っても、私ができることは撫でていることくらいですよ」


三郎は、その言葉に十分だと言って目を瞑った
私はそんな三郎の頭を撫でた






しばらくして、私もうとうととしていると、冷たいものがしゅるりと足を撫でた


「っ」


少々ビックリしたものの、しゅーっと言う音・・・正確には声に、私は息をついた


「おいで」


呼べばしゅるりと足に巻きついて登ってくる感覚がした
そして姿を現したのは赤に黄土の模様のついた美しい蛇


「確か・・・三年生の伊賀崎くんの・・・?」


手を伸ばせば登ってきて首に軽く巻きついた
一人で居るということは、脱走したのかそれともただ離しているだけなのか・・・
そのとき、遠くのほうで叫ぶ声がした
そのこえは少しずつこちらへ近づいてきて、その声もはっきりしてくる


「・・・ー!・・・・コー!・・・・・ジュンコー!」


その声が伊賀崎くんのものであると分かったので、私はその蛇に話しかけた


「ジュンコという名なんですか・・・綺麗な名前を貰いましたね」


人差し指で軽く頭を撫でて、私は伊賀崎くんがこちらに来るのを待った






落ち着くその場所








- 39 -