参伍 39後に設定P.44 あまり会いたくはないが、仕事だからと天女の居る事務室で仕事をし、書類を運んだ帰り やけに多く蛸壷が掘られた区域があった そしてざくざくという土を掘る音も 「綾部くん?」 掘っている途中でぽっかりとあいた穴を覗き込んで声をかければ、まだそう深くない位置に紫がかった灰色の髪が揺れた 「・・・鉢屋二葉さん?」 「あぁ、苗字では三郎と被りますから二葉で構いませんよ。・・・どうかしましたか?私でよければ聞きますよ」 綾部くんは少し考えるそぶりを見せると、こちらに手を伸ばした ・・・これは、入れという意味なのか、それとも出してという意味なのか・・・ とりあえず伸ばされた手を掴むと、ぐい、と引っ張られた 少々バランスを崩すも、綾部くんにぶつからないように体制を立て直して足をつけた 「おぉー」 「・・・それはそのまま落ちると思っていた口ですね?」 そういえば、綾部くんは素直にこくりと頷いて、私は苦笑を漏らした 私は狭い蛸壷の中に腰を下ろし、土がついた服にも構わず綾部くんを座らせ抱き寄せるとぽすぽすと頭を軽く撫でた 「何かあったのでしょう?泣きたいなら泣きなさい、私は何も見ていないのですから」 動揺した気配があったが、すぐにそれも収まった そしてぽつり、とこぼす声 「――――あんな女の、どこが良いんですか・・・・」 その声に、あぁ、と私は納得した きっとこの子も三郎や私のように彼女を好きになれなかったのだと 「アレはただの学園の毒にしかならないと私は思いますよ」 「!・・・二葉さんもですか・・・?」 ぱっと顔を上げて私を見た綾部くんに、私は笑った 「はい、あの女、私は大嫌いです」 その言葉に安心したのか、綾部くんは私にぎゅっと抱きついて、よかった、と漏らした 狭い蛸壷の中で、私達はしばらくそうしていた ――――― side:喜八郎 言ってしまった 二葉さんはあの女に優しくしているから、きっとあの女の事が好きなのに 何か言われるんじゃないかと怖かった 滝に言っても、三木に言っても、タカ丸さんに言っても、みんな天女様はいい人だと口をそろえて言うばかりで、きっと二葉さんもそうなんだろうと思った けれど、答えた声は思っていたものと違って 「アレはただの学園の毒にしかならないと私は思いますよ」 「!・・・二葉さんもですか・・・?」 その言葉に、私は顔を上げて二葉さんを見た 私に笑いかけるその顔はいつもの笑顔と変わらない あの女が来る前と、変わらないもの 「はい、あの女、私は大嫌いです」 再度告げられた言葉に、私は同じ意見の人が居ることが嬉しくて、その身体に抱きつく腕の力を少しだけ強めた 紫のもぐら → 戻 |