参陸 「兄上・・・っ」 「三郎・・・大丈夫ですよ」 ぽすぽすと私の頭を撫でる姉上はあの女が来る前と変わらず、酷く安心した けれどそれと同じくらい恐怖が見え隠れする 例えば、あの女と姉上が一緒に歩いているとき 例えば、あの女に姉上が笑いかけたとき 例えば、あの女が姉上に笑ったとき あの女に姉上を盗られるのではないかと それに、最近四年の綾部も良く姉上に懐く様になった でも、綾部はあの女が嫌いだから、それは私と一緒だから それでもやっぱり一緒に居るところを見るとイライラするときがある だって、姉上は私の姉上なのに! 「・・・あね、うえ・・・」 「ここでそう呼ばれるのはあまり嬉しくないんですけどね・・・」 「っあんな女に、目を向けないでくれ・・・っ」 聞く耳もってませんね?と言う声がしたけど、聞こえない振りをした 返事の代わりに強く姉上を抱きしめれば、姉上が少し困ったように笑う気配がした 「心配ありがとうございます、三郎。大丈夫ですよ、アレに私が靡くと思いますか?」 「思わない」 「その通りです。私の一番は三郎ですから」 姉上はいつだって私を一番に想ってくれた 私が入学したときに姿を消したのも、私が友を作れるようにとあえて姿をくらませたのだという 私はそれを言われたときに、姉上が居ても友は作れたと主張したが、卒業したばかりでまだ姉上がいた名残のある場所だったから、そちらばかりに意識が行くと思ったらしい 曰わく、捨てられたと思わせたときに、恋しくて古きにすがるか、悲しくなって忘れようと新しきに馴染むかだとおもったから、だそうだ 5歳ちがうとそこまで考えが違うものなのかと、なんだか姉上が遠く見えた 「姉上」 「はい」 「大好きだから、あんな女のところに行かないでくれ・・・私を、置いていかないで・・・」 縋る姉上から、ふふ、と笑いがこぼれた そして、心配性ですね、とこぼす声も 「三郎、私はあなたを一番に想っていますよ」 あぁ、姉上・・・二葉のその言葉が親愛じゃなければいいのに 囁く声に異なるおもい → 戻 |