弐玖 先ほど、帰る前に視線を感じた気がしたが、殺気も無ければ追ってくる様子もなかったし、問題はないだろう そう判断した私は、まっすぐ忍術学園に戻り、小松田さんのサインくださーいの言葉に苦笑しながら、名前を書いて中に入った 当てられた部屋で着替えてから、私は調理場へ向かった ・・・あぁ、いつまでも三郎の部屋にいられませんから、職員用の長屋の一角を貸してもらってるだけで、誰かの部屋を奪ったりしたわけじゃないからな 「おばちゃん」 「おや、二葉くん、戻ってたのかい?」 「えぇ、先ほど」 何かお手伝いすることはと聞けば、じゃあと頼まれた どうやら今日は新鮮な魚が入ったらしい ならば、と醤油とみりん、酒を混ぜて煮ると、そのまま冷ますために放置して、魚を三枚に下ろしてから一口大に切り、先ほど作ったものに入れた 魚を下ろしたときに出た骨は味噌汁に入れてあら汁にした 「あら、漬けにしたのね」 「えぇ、新鮮なものなら煮たり焼いたりするよりもこちらのほうが美味しいかと」 「そうねぇ、きっと喜ぶわ」 にこりと笑ったおばちゃんはどうやら肉豆腐らしく、これは久々知くんが喜びそうだなと思った 食事の鐘が鳴って、さあ忙しくなるなと思ったとき、それはやってきた 「お、遅れちゃってごめんなさぁいっ!」 「あら、かなちゃん。今日は大丈夫よ、二葉くんも帰ってきたことだから、調理場のお手伝いはもう大丈夫」 「え、二葉、くんって・・・!」 第一印象は何者だコイツ どう見ても平和ボケした雰囲気に、前の世を思い出す 20年も前だというのに、よく覚えているなと、我ながら思ったりはするが 「あ、えっと、始めまして!二葉くん、私宇佐美かなって言いますっ。未来から来てたくさん分からないことあるんですけど、よろしく、お願いしますっ」 「始めまして、宇佐美さん。私は鉢屋二葉と申します。調理場の手伝いをしています」 「わぁ、一緒なんですねっ!」 顔を赤らめてニコニコと笑う顔はいかにも平和な世で過ごしてきた雰囲気そのままだ しかし、人の名前をいきなり下の名前で呼んだのはまあ百歩譲って気にしないことにしておく、三郎もいることだからな・・・君付けっていうのはちょっといただけないが だが、未来から来た、か・・・同郷ということだろうか?私が"僕"であったときと同じくらいの年齢のような気がするが・・・こんなに馬鹿っぽかっただろうか 何にせよ、面倒なことになったな、と表情とは裏腹に内心ため息をつくのだった 同郷もどき → 戻 |