もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

参拾




side:天女


すごーい!そう思った
だってみんな私のことを大切にしてくれて愛してくれるの
それにみんな思ったよりもずっとカッコいい
凄く優しくしてくれるし、下級生はみんなかなお姉さんって寄ってきてくれるし、幸せ!







こちらに来てから、私の立場はがらりと特別になった
天女って肩書きに、事務のお手伝い
後、なんか本当はいるけど今用事で学園にいないから、その代わりに調理場のお手伝い
正直事務は字が読めないし、現代と違うからご飯も作りなれないから大変
だけど、そういうお手伝いするだけで愛してくれるんだし、みんなが手伝ってくれるからそこまでつらくない

ふんふんと鼻歌を歌いながら、気分良く私は掃除をしていた
すると視界の端に見えた紺色の制服


「あ、かなさん、お掃除ですか?」
「うんっ、そうなの。みんなは委員会終ったの?」
「はい、これからご飯の間まで少し鍛錬しようって話をしてたところです」


多分、雷蔵くんが私に話しかけてくれた
でも、なんだか同じ顔をしてる三郎くんは話しかけてくれなくて、私はちょこっとだけ悲しかったりする
まあ、三郎くんってどこのサイトさん見てもヒロインになついてないこと多いもん、仕方ないよね?
私が雷蔵くんの後ろを気にしているのに気がついたのか、雷蔵くんは苦笑いした


「まったく、三郎ったら二葉さんが居ないからってそんなにむくれることないでしょ?」
「・・・雷蔵は兄上を知らないからそんなことが言えるんだ。私の立場だったら絶対に私と同じようになってるぞ」
「相変わらず二葉さん大好きだなぁ、三郎は」


三郎くんってお兄さんいるんだ
それが正直な感想
でも、"三郎"だし、上に二人いるのかな、とも思う
そうしたら相当安直な名前だよね
さすがに一郎と二郎って訳じゃなかったみたいだけど
にしても、三郎くんはブラコンなんだ・・・なんか思ってたよりも子どもっぽい?
だったら、6年生のほうが落ち着きあって好きかもしれない
子どもは恋愛対象にならないもん
折角トリップしたなら、キャラと恋人になりたいって思うもんね?


「あれ、そういえば、かなさん、そろそろ調理場行かないとまずいんじゃ・・・?」
「あっ、いっけなーい!忘れてたっ!ありがと、兵助くん!」

私は兵助くんに言われて、慌しく竹箒を片付けて調理場に向かった
そして、私は運命的な出会いを果たす






「お、遅れちゃってごめんなさぁいっ!」


ばたばたと調理場へ入っていくと、見知らぬ人が居た
緑がかった黒髪の男の人のようだった
私を見たおばちゃんが、にこりと笑った


「あら、かなちゃん。今日からもう大丈夫よ、二葉くんも帰ってきたことだから、調理場のお手伝いはもう大丈夫」
「え、二葉、くんって・・・?!」


おばちゃんのセリフの後に振り返ったその男の人は、中性的でなんだか不思議な雰囲気を持った人だった
でも、やっぱりかっこよくて、さすが漫画、とちょっとだけ感心した


「あ、えっと、始めまして!私宇佐美かなって言いますっ。未来から来てたくさん分からないことあるんですけど、よろしくお願いしますっ、二葉くんっ」


何か喋らないと、と思って自己紹介すると、その二葉くんって人は、やわらかく笑ってくれた


「始めまして、宇佐美さん。私は鉢屋二葉と申します。調理場の手伝いをしています」
「わぁ、一緒なんですねっ!」


笑った顔が凄くかっこよくて、私は頬に熱が集まるのが分かった

それに調理場のお手伝い!お手伝いって事は立場が一緒って事だよね?
こんなカッコいい人と同僚なんて、すっごい嬉しい!
鉢屋ってことはこの二葉くんが三郎くんのお兄さんって事だよね?何歳なんだろう
落ち着いてるから、25とか?ちょっとオジサン過ぎるかなぁ・・・
でも、顔は問題ないよね、うん、恋人候補に入れておこっと♪

私はにこにこと笑いながら、これから始まるだろう恋に思いを馳せた





思考回路はラビリンス







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