もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

弐陸







「近くで、また戦ですか・・・」
「どうやらあまりいい様子ではなさそうで・・・二葉くんに頼むのは間違いだと分かってるんだが、気にかけてもらっていていいかな?」
「構いませんよ、力のあるものが下を守るのは義務というものです。後輩達は皆可愛いですから」


ありがとう、と頭を下げようとした土井先生に、私は頭を下げられるようなことじゃないからと止めた


「私は一介の事務員であり、教師よりも格下です。そのように頭を下げられたら私が困りますよ」
「だが・・・」
「土井先生、その子はそういう子だ、気にしないほうがいい」


土井先生の後ろから、今しがた来た山田先生がそう声をかけた
土井先生は山田先生・・・と声を漏らす
山田先生は私を見て、その態度は変わらないな、二葉と言った


「まあ、この口調と態度はもう癖のようなものですからね。いまさら変えても違和感があると思いますよ」
「もっともだ。だが、変装時は変えているんだろう?」
「そうじゃなければ意味がありませんからね」


くすくすと笑った
山田先生は、前からお前の変装技術には驚かされていたからなぁとこぼした
鉢屋は芸能集団であるから、私がそういう方面に長けているのは普通なのだ、それは三郎にも同じ事が言える


「さて、御用はそれだけですか?もしもうないのでしたら、折角なのでその戦場、見てきますよ」
「あぁ、それだけだから、行きたいならばいってくるといい」
「はい、それでは失礼します」


私は山田先生と土井先生に一礼して、その場を去った






――――――
side:伝蔵




「不思議な子ですね・・・」
「あいつは昔からそうだからな、在学中は鉢屋に似てよくいたずらをしていたよ。まあ、可愛いものだったが」
「えっ、そうなんですか?」


土井先生は意外そうな顔をした
まあ、今の様子だけ見ていたらきっと想像がつかないのだろうな
めっきり落ち着いて、あの頃が嘘のようだとあたしも感じる


「まあ、あいつも大人になったということなんでしょうねぇ」


そう言って後姿を見送った





成長した背中







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