もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

拾参







食堂に入れば、いつもと違うその食堂の顔


「・・・二葉、先輩・・・?」
「おや?伊作と、留三郎ですか?大きくなりましたねぇ」


にこり、と5年前に見たまま変わらない笑顔
6年間保健委員を務め、委員長になったというのに、不運ではなかった、その人
僕が蛸壷や塹壕に落ちるたびに、仕方ないですねぇと言いながらも笑って助けてくれた、鉢屋二葉先輩


「先輩・・・どうしてここに・・・?」
「三郎に、会いに来ましてね」


もちろん君たちにも会いたかったんですけどね、と笑う二葉先輩
その微笑の温かさに、僕は泣きそうになった
それに気がついたのか、二葉先輩は困ったように笑って、こらこら、6年生が泣いてはいけませんよ、と言った
僕は慌てて目元をぬぐって、笑った


「さ、夕食は何にしますか?A定食はアイナメのやわらか揚げ煮、B定食は豚バラ肉とたけのこの甘辛煮込みですよ」
「僕はAで、留さんは?」
「俺はBをお願いします」
「はい、少し待っててくださいね」


そうして注文したものを持ってきてくれる二葉先輩
お残しは許しませんよ?と笑って言う二葉先輩の目はとても温かくて、1年生のころを思い出した




―――――
side:雷蔵




「あれ、兄上?」
「二葉さん、どうしてここに・・・というよりも、どうして厨房に?」
「お手伝いですよ、今日は泊まることになりますから」


二葉さんは僕らににこにこしながら、AとB、どちらにします?と聞いてきた


「豆腐ありますかっ?」
「豆腐は味噌汁にいれてますから、どちらでも」
「兵助本当に豆腐好きだな・・・」


ハチが兵助に相変わらずのセリフを言う
むしろこのセリフ、毎回言ってないだろうか


「私はBがいい」
「じゃ、俺はAにするよ」
「俺も勘ちゃんと一緒にする」
「じゃあ、俺はBにする、雷蔵は?」
「え、うーん・・・どうしよう・・・」


AもBもおいしそうだから、凄く迷う
それはいつものことなんだけど、やっぱり迷うものは迷うんだ
毎回、三郎がしびれを切らして注文しちゃうけど・・・


「兄上、雷蔵のはAにしてくれ」
「いいんですか?」
「雷蔵が迷い始めると、決まらないんだ」


今日もいつものパターン
二葉さんは5人分の定食を持ってくると、僕たちに渡してくれた

「お残しは、ゆるしませんよ?」


手渡された時に言われた何時ものセリフは、なんだか優しい口調なのに従わないといけない気がした




優しい(?)お残しは許しませんよ








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