玖 ショックを受けたような三郎の表情は気がつかない振りをして、私はさて、と切り出した 「・・・食堂のおばちゃんに挨拶をしたら、お暇しますかね」 そう言って立ち上がる 三郎は手を堅く握って、下を向いたまま 他のお友達は、私と三郎にどう声をかけたらよいか、分からずに様子をうかがっている 私は仕方がないなと言うように、片膝をついて三郎の顔をあげさせた 「私が死ぬと言っているわけでも、壱槻兄上が死ぬと言っているわけでもありませんよ、三郎」 「でも・・・」 「壱槻兄上も、私も、そう簡単に死ぬと思いますか?」 私の問いに、三郎は大きく首を振って否と表した その様子を見て、私は笑いかける 「三郎がやらないといけないのは、学ぶことですよ。残りの月日を、大切にしなさい」 「はい」 良い子ですね、と頭を撫でてやれば、三郎は照れくさそうに笑った それからね、これは三郎次第なんですけど、と付け足す 「気になってたんですよ、その敬語。昔はそうじゃなかったのに、三郎と壁が出来たようで、あまり好きではないんです」 「・・・じゃあ、普通にはなす」 「はい、そうして下さい」 私は笑って立ち上がると、それでは食堂に行きますね、と残して、部屋を後にしようとした ・・・のだが、三郎が私の袖を掴んでいた 「兄上、確かフリーだったよな?」 「・・・まあ、今は仕事を特に受けたわけではありませんが・・・」 私がそういうと、三郎は目をキラリと輝かせた・・・ような気がする そして私の手をがしりと掴んだ 「じゃあ、学園長に頼めばきっと学園で働けるよな?」 私はうーんと考える素振りを見せた ・・・実際問題、私は別にかまわないが・・・鉢屋としてはどうなのだろうかとは思う 今の身長は三郎よりも少々小さいくらいで、来年になればもっと差は開くだろう 嫌でも男女の差が開く 今は男と認識されているから、特になにも言われない けれど、いくら鉢屋衆 長の娘であったとしても、嫁がないと言う選択肢はない 既に20歳で行き遅れの私は、嫁ぎ先を探すのも一苦労だろう ・・・そう思えば、結婚を考えず、ここで教師をした方がいいのかもしれない、とは思う けれど 「・・・一応、考えておきます」 考えて出た結果は、そんなものだった 突然の提案 → 戻 |