もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

そんな言葉が欲しいわけではなくて、ただ―――







6年生合同の変装・・・まぁ、女装なのだが、その集合場所である門前に居ると、向こうのほうからくのたまが歩いてきた
あれは・・・一ツ瀬、か?


「あ、仙蔵、相変わらず女装上手いね・・・」
「そういう伊作は、一ツ瀬とお熱いことだな」
「え、ち、違うよ・・・!」


からかわれているのが分かっていないようで、本気で焦っているようだ
さすが、アホのはと言ったところか?
一ツ瀬は苦笑しながら、見守っていた


「立花先輩、それくらいでやめてあげて下さい。せっかくのおめかしが崩れてしまったら勿体無いですから」


一ツ瀬に言われて、私は仕方がないな、と言って伊作をからかうのをやめた
その様子に、一ツ瀬はありがとうございます、とやわらかく笑った


「朱、もういいよ?」
「でも、折角ですからお見送りしますよ、どちらにしろ暇ですから」
「・・・ありがとう」


・・・また朝から見せ付けてくれる・・・
私はそう思いながら、小さくため息をついた





しばらくすれば、他の6年が集まってきて、伊作と一ツ瀬の様子に呆れたような、そんな表情を浮かべた


「いってらっしゃい、伊作先輩」
「ありがとう朱、いってきます」


教員から指示があって、私たちは町に行くために学園を出た
伊作と一ツ瀬はしっかりとバカップルぶりを見せてくれたがな
ちなみにその後留三郎にからかわれていた
もちろん私もからかったがな







実習終了後は一直線に一ツ瀬のもとへ向かったようだ
騙して買ってもらったかんざしは一ツ瀬に渡すのだろうな、後でまたからかってやるか
そう思いながら、私は口元に笑みを浮かべた


あぁ、これでも祝っているのだぞ?
面白いから、こうしているだけで、な








そんな言葉が
 欲しいわけではなくて、ただ―――

愛していると、
 そういってもらえれば
  私は幸せなのです








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