もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ







「・・・どうしたんでしょうか・・・」


朱ちゃんが首を傾げて久々知の後ろ姿を見ていた
僕は何食わぬ顔をして、さぁ・・・どうしたんだろうね、と答えた



―――――



その日の放課後
僕は久々知に会うために、5年い組の教室へ向かった


「ごめんね、久々知、いる?」


久々知は不思議そうな顔をすると、こちらへ来た


「どうかしましたか・・・?」
「あ、うん、たいしたことじゃないんだけど、話したいことがあるから、夕食の後にでも僕の部屋来て貰っていい?」


久々知は不思議そうにはい、と頷くのを確認して、僕はまた後でと声をかけて5年生の教室を後にした

―――ある意味で、僕の決戦、かな

くすり、と笑って、僕は保健室へと向かった




―――――


「善法寺先輩、久々知です」
「呼び立ててごめんね、入って」


夜になって、久々知が部屋を訪ねてきた
僕が声をかけると、久々知は部屋の中に入って僕の前に座った


「あの、俺に話って・・・」
「うん、朱ちゃんのことなんだけどね」
「朱の・・・?」


久々知が少しだけ表情を硬くした
あぁ、まだ自覚してないのかな、それなら都合がいいや
僕はにこりと笑った


「朱ちゃん、今日の朝の久々知の様子を気にしてたからね、もし何かあるなら言ってあげた方がいい」
「・・・あの、何で、善法寺先輩が・・・?」
「だって・・・・・・自分の恋人が気に悩んでいるなら、解決する手助けをしてあげるのも僕の仕事かなって、ね」


久々知は目を見開いた
相当驚いてるみたい・・・まあ、当然かな、知ってる様子なかったし
久々知は下を向くと、静かに分かりました、と言った
そこに、ひとつの気配


「伊作先輩・・・?」


すっと障子を開けたのは、朱ちゃんだった
久々知は驚いてどうしていいのか分からないようだった
朱ちゃんも、久々知がいるとは思わず、驚いている


「あ・・・ごめんなさい、尋ね人がいると気づかず・・・」
「ううん、丁度良かった」


僕は優しく笑って、手招きした
朱ちゃんはおずおずと言ったかんじで僕の横より少し後ろに座った
僕は久々知に目線で促すと、久々知は意を決したように口を開いた


「朱」
「・・・?」
「・・・前に、酷い事言って、悪かった・・・その・・・これからも幼馴染で・・・友達で、居ていいか・・・?」


久々知の言葉に朱ちゃんはぱちぱちと目を瞬かせてから笑った


「もちろんです。アレは、だって仕方がなかったんです。ちょっとだけ寂しかったけど・・・でも、どんなことがあったって、兵ちゃんは、私の大切なお友達ですよ」
「・・・ああ!」


硬かった久々知の表情が和らいだ
けれどその朱ちゃんの言葉は、同時に君の恋が終わりを告げた瞬間だって、気がついていないんだろうね―――
僕は仲直りができてよかったね、と言って笑った






咲く恋花、枯れる恋花








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