もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ







かなさんがくの一だと知らされた次の日
結局前日に朱に会えなかった俺は、今日こそは、と思っていた

いつものメンバー・・・三郎と雷蔵とハチと俺で食堂に入ったとき、俺は朱の後姿を見つけた


「・・・あ」
「お、一ツ瀬じゃん、兵助行って来た方が・・・」
「お、おう、行ってくる・・・飯頼んだ」


ハチの頼まれた!という元気のいい返事を後ろに、俺は朱の元へ向かった


「朱」


名前を呼ばれて振り向いた朱は、なんだか最後に俺が見たときと違うような気がした
朱はいつもみたいに笑うと・・・


「おはようございます、兵ちゃん」
「・・・朱、声が・・・」


朱が、喋った
それになんだか嬉しくなって、それと同時に心が温かくなった
それは俺がかなさんに向けていた感情と良く似ていた気がした
気を取り直して、俺が朱に謝ろうとしたとき


「朱ちゃん」
「あ、伊作先輩・・・」


後ろを振り向けば、善法寺先輩が朱に笑いかけていた
朱もなんだか嬉しそうに笑っている
俺だけがなんだか外側にいるような、そんな雰囲気だった


「久々知はどうしたの?朱ちゃんになにか用事があった?」
「あ・・・いえ・・・あったといえばあったんですけど・・・」


俺はなんだか気まずくなって言葉を濁した
朱はそんな俺を見てどうしたの?と声をかけてくれた
俺は苦笑して首を振ると、失礼します、とその場を後にした






みんなが取っておいてくれた席に戻ると、ハチが笑ってどうだった?と聞いてくれた
俺は小さく首を振ると、少しだけ冷たくなった定食に箸をつけた
そんな俺に、ハチはちょっとだけ残念そうな顔になって、雷蔵は心配そうに俺を見ていた
三郎は、なんだか良く分からなかったけれど・・・―――




戻れない距離








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