もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ




「朱ちゃん」
「朱」
「さぁ、始めましょう」
「宴が始まるのよ」


保健室で、二コリと笑ったお二人の先輩に、私は笑って是の答えを返しました


―――――


「もう大丈夫かな・・・対処が早かったからか、後遺症も殆どなくてよかったよ」
「はい、ご心配をおかけしました」


私は伊作先輩にぺこりとお辞儀をして保健室を出て行こうとしました
その私の後姿に、伊作先輩は心配そうな声をかけました


「本当に、いくの?」
「はい、それが私の役目です」


私は今日、かなさんと共に、町へ出かけます
私の役目を、終えるために


「・・・気をつけてね」
「はい・・・では、また後ほど・・・―――」


私は保健室を出ようとしました
けれどそれはこの場所にいるもう一人・・・伊作先輩によって出来なくなりました
なぜなら・・・


「本当なら危ないことはさせたくないんだ・・・」
「伊作先輩・・・?」
「ねえ、朱ちゃん・・・」


僕が、君のことが好きだと言ったら、君は応えてくれる・・・?

ばっと私は後ろを振り向いて、けれどとても穏やかな笑顔を浮かべた伊作先輩をみて、私はなんと言えばいいのか分かりませんでした
その様子に、伊作先輩は苦笑して、全部終わってからでいいんだ・・・いってらっしゃい、と私を保健室の外へ送り出しました


私はただ前を向いて門へ向かいました
そこにいるはずの、鉢屋くんと、かなさんとで町へ出かけるために



―――――


この間はなんだか毒がってなってお開きになっちゃったお茶会の変わりに、朱ちゃんが一緒に町にって誘ってくれたの!
なんだか体調が心配だからって三郎くんも一緒だけど・・・でもガールズトークが久しぶりにたくさんできるはずだから凄い楽しみ!
門の前で朱ちゃんを待っていると、緑色のグラデーションがかかった着物を着て髪をかんざしで結い上げた朱ちゃんが歩いてきた


「朱ちゃん、かわいいっ!」


私がそういうと、朱ちゃんは嬉しそうにふわりと笑って、私も可愛いと動作で言ってくれた
私はそれが嬉しくてありがとうって笑顔で返したの
そうしているうちに三郎くんが来て、三人で小松田さんの出門表にサインしてから町に向かったの


私たちは町でかんざしを見たり、いろんな小物を見たりして、すっごい楽しかった
私に似合うからって、かんざしを朱ちゃんが買ってくれて、せっかくだからって結ってくれたの!
さすが女の子っていうか、私は最近やっと一人でできるようになったのに(それでも凄く不恰好で人に見せられるものじゃないんだけど)、朱ちゃんはすぐに結い終わっちゃって凄く上手だったの!
帰ってからやり方教えてねって言ったらいいよって頷いてくれたし、甘味処では三郎くんが奢ってくれて、凄く幸せーって感じ

こんな日がずっと続けば良いのにな





"彼女"の最後の日








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