もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ




僕が彼女・・・一ツ瀬さんを見たのは、すべてが終わった後だった


ことの日の前日、僕は池に落ちてびしょ濡れになった後、深めの塹壕に落ち、 生憎なことにその時クナイも持っていなかった
人がよく通る場所でもなく、僕は濡れたまま助けを待っていた
まぁ、案の定それて風邪をひいて、ほかのみんなが行った忍務にも行けなかったんだけど・・・
僕は熱で動くことができなかった、だから、下級生たちが必死に守ろうとしていたそのとき、僕はなにも出来ずにいた



だから・・・一ツ瀬さんが保健室で重傷を負っているって聞いたときは、本当に自分を責めたよ
僕がちゃんと動ければ・・・一ツ瀬さんは怪我をしなかったかもしれないのに
新野先生の話だと、傷は深くて、きっと一生残ることになると言っていた
くのたまとはいえ、女の子である一ツ瀬さんには辛いはずなのに・・・


風邪が治ってからは毎日のように一ツ瀬さんの傷をみて、包帯を変えたりと自分の失態を誤魔化すように世話をしていた


「・・・今日も、目覚めないなぁ・・・」


既に彼女が怪我を負ってから三日
そろそろ目覚めても良い筈なのに、未だに目が覚めない
僕は一つため息をついて、保健室を出ようとした
そのときだった


「・・・っ」


かたく閉じられていた目が薄く開いた
ゆっくりと開けられる目に、僕はとても安堵したんだ


「一ツ瀬さん、気分はどう?」
「・・・ぜん・・・ぽ・・・じ・・・・・・せ・・・ぱい・・・?」


凄く掠れていたけれど、一ツ瀬さんがそう言った
・・・って、あれ?一ツ瀬さんって声がでないはずじゃ・・・
僕がかたまっていると、彼女は声無く呟いたのが見えた


――私、生きてるんですね・・・――


少し嬉しそうというか、ほっとしたような、そんな表情だった
保健室に運んだという仙蔵から聞いた話では、一ツ瀬さんはかなさんを庇って怪我をしたのだという
けれど、かなさんに惹かれていたはずの文次郎が、かなさんに不審そうな目を向けていた
まるで、かなさんを見極めるかのように・・・
きっと一ツ瀬さんがこうなる前にそんな目を向けていたんだったら、きっと僕は文次郎を窘めただろうけれど・・・なぜだか、そういう気にはなれなかった



静かに揺らぐ水鏡







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