自己紹介をしましょう。


ぷくっとむくれて拗ねる男。
一体どうしてくれよう。
こちらとしても機嫌を取ろうなんて気なぞ起きないわけであるが、素性の知れない男を事情もわからないまま部屋に置いておきたくはない。
話を進めようにも拗ねて口をきかない男に楓香は盛大にため息をついた。


「ー…あンな、言っとくけど悪ィのアンタだからな」
「………………」
「…まぁ、殴ったのは悪かったけどさ」
「………………」
「…で?ホラ早く要望言えよアタシだって眠ィんだから」
「………………」
「…………無視か貴様」


ぴきッと、
うっかり額に青筋が浮かんでしまいそうだ。
とりあえず眠気覚ましにとつけたタバコを口にくわえて、その苦い煙で肺を満たしてからふぅっと一気に吐き出す。
何ともいえない充実感。
決して旨いワケではないのに、これがニコチン中毒というやつだろうか。
…いや、もしかしたらイラついてるせいかもしれない。


「……まっこと信じられん、こんなにもガサツな者が女だと、?」
「黙れ死ね。この世の女全員が女らしいと思うなよ」
「お主のような女見たことがない」
「お前が世界の中心だと思うなよ。つかアタシだってアンタみたいな格好の奴見たことねぇよ」
「何をいうか、これは我が国の歴とした正装だ」
「……何を馬鹿なことを」


やっと喋ったと思えば失礼極まりない。
そう、さっきから感じているイライラの原因は妙に偉そうな口調とこの態度、そしてコイツの格好だったりする。
我が国の正装だと言い張るコイツ。
この国の、日本の男の正装は、現在はスーツだろうか?
百歩譲って、袴といったところ。
それがどうだ。
この男の服装ときたらどこの漫画のコスプレだと言いたくなるようなほど現実からかけ離れたものだ。
銀を基調とした色合いに、所々蒼の刺繍が入るそれ。
金色やら華やかな色味も混じったその服の肩からは足元まで伸びるマント。
本当、どこの国から来た王子だコイツはと突っ込みたくなる格好である。
しかしそれがまた似合うものだから。
ちゃんと部屋の電気をつけて部屋に現れた男の顔を見たときは不覚にも一瞬見とれてしまった。
格好良い、という形容がばっちり当てはまる顔立ち。
大学なんかにいたら間違いなく大層おモテになる顔である。
髪の色は黒に僅かに蒼が混じった感じ。
服装といい口調といい、実に不思議な男である。
まったく、どこの世界の人間だ。



「…アンタ、名前は?」

そういえばまだ名前を聞いていない。
ぶしつけな、とでも言いたげな視線を向けられて眉を寄せる楓香だが、名前を聞くときはまず自分からともいうせい、こほんと小さく咳払いをする。


「アタシの名前は佐倉楓香だ。年齢は20歳」


タバコを吸ってもお酒を飲んでも大丈夫な年齢。
なったのはつい最近の話だが、楓香はばっちり酒飲みヘビースモーカーだ。
自分が名乗ったのだから早く名乗れと、先ほどされたのと同じように含みを込めて視線を送ると、男は面倒そうにしながらもしぶしぶ口を開いた。


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