プロローグ


『表だ!表を探せ!』
『誰か馬小屋を見てこい!!』
『いたか!?』
『いや、こっちにはいなかった!』


鳴り響くは騒々しい警鐘。
行き交う人々には焦りの表情が浮かび、焦燥からかその口調が荒々しいものに変化する。

或る者は蝋を手に城内の生活スペースを捜索する。
或る者は灯りを手に荒廃した建物や倉庫を捜索する。
或る者は剣を片手に庭を駆け巡る。
或る者は馬に乗り広範囲の捜索を行う。


或る者或る者、城内にいる関係者総てが動員されて、近衛隊長の怒声が辺りにこだまする。


「A班は東塔を、B班は南塔を!C班は引き続き入り口を固めろ!DEF班は敷地内を隈無く捜索!G班は俺についてこい!!
一刻も早く見付け出せ!!!」




そう、
これは人探しの騒動だ。
城のあちこちから光が伸びて辺りを照らす。
その光の量といったら。
まるで上が夜、下が昼になったかと錯覚してしまいそうな程だ。
ただでさえ異様に明るかった夜の空が一層昼間に近付けられる。
辺りを捜索する人間とは別の、高価なナリをしているぶくぶくの貴族なんかはそれを楽しんでいるかのよう。


もっと、明かりを!

そう指示された兵士は戸惑いながらも敬礼すると、担当の人間へと素早く指示を出す。
とたんにますます明るくなる庭。
ますます機嫌の良くなる貴族。
ここに一人、どんどん機嫌が悪くなっていく男がいることも、彼は気付いていない様子。
たかが他国の一貴族に過ぎないデブに、うちの兵を使役されるのは面白くない。
今度あちらの国の王に使いでも以て送ろうか。
しかしそれも面倒なことになる予感、まどろっこしいのは好きじゃない。

…今宵は全国民挙げての、国交再開も兼ねたパーティーだったというのに、
小さく漏れた溜め息は一体何に向けてつかれたものなのか。
己の国しか考えない年配国王にだろうか、それともきらびやかに着飾った空気の読めない貴族にだろうか、はたまた相手国に気に入られようと必死な自国の奴等にだろうか、

あるいは、
―…この騒動を起こした人物に向けて、


否、それだけはない。
だって俺が悪い訳じゃない。
悪いのは、浮かれていた奴等だ。
この国の民だ。
世界だ。
俺の意見を無視し、俺の友人を追放するなどという暴挙に至るから。
人一人追放しておいて友好を深めるパーティーだなんて、、この国の連中は一体何で出来ているんだろう。
きっと鉛とか鉄だろう。


ハッ…。

小さく、自嘲気味にもう一度溜め息をついてみて。
ならば俺は、
たかだか友人一人のために国交に関わるパーティーを台無しにする俺は、
一体何で出来ているんだろうか。

―…お前はそうだなぁ、
きっと主成分は氷とかドライアイスとか剣山とか…嗚呼、溶岩とかもいいねぇ。
ははッ、何者も寄せ付けない感じだな。
…よもや人間じゃあない。
ー…やだな冗談だよ、許しとくれ。
あ、いやでも一つだけ確実。
心臓に毛は生えてるだろうね。



いつだかアイツに言われた言葉が脳内を駆け巡る。
無邪気に笑うアイツの顔。
最後に見たアイツの顔はどんな顔だった、?


ぱたり、
地面に朱色の液体が落ちる。
ぼうっ、と、
辺りが淡く光るのは外の兵士の灯りのせいじゃない。
俺が描いた魔方陣の、線が蒼白く光るせい。


最後にアイツに言われた言葉は、何だっただろうか。
せめてそういうときくらい、素直に泣いて見せたらいいものを。
泣かないかわりに痛いくらい悲しい笑顔を浮かべたアイツは、俺に平然とこう言ってのけた。


ゴメンな、今まで遊んでくれて有難うよ。
ー…もう、会うこともないだろう。
…元気でな。




蒼白い光と共に消えたアイツの足元にあった魔方陣。
それは今正に、俺の目の前で発光している魔方陣だ。
それが何の魔方陣だかは知らない。
だけどアイツのことだ、きっと死んだりするような危ないモノなんかじゃないはず。
バタバタと近付く足音に気付いた俺は急いで陣の中央に下り立った。
次いで響くドアを叩く音、程無くして勢いよく蹴破られた扉の向こうには数人の近衛兵の姿。
奴等は俺の姿を見付けると一瞬安堵の表情を浮かべた。
しかしそんなのも束の間、そいつらの視線が俺の足元に向かったならば、


「王子!」
「いけません王子!」
「その様な危険な行為はお止め下さい!!」


口々に発する言葉は俺を制するかの言葉。
でも所詮は口だけだ。
誰も俺に近付かない。
俺を中心に描かれた円が、魔方陣が、どんな効力を持ったものだか検討もつかないからだ。
王族を守る近衛兵足るもの、自らの危険よりも俺の命を重んじて飛び込んできてもいいものを。
遅れて現れた近衛隊長に、俺はにやリと笑みを向ける。


「王子!心中お察し致しますしかし!今は「今は、?」…ッ」


今は駄目、
なら、何時ならいいんだ。
威嚇するかの様に鋭い視線を向けると、途端に口ごもる近衛隊長。
全く、
どいつもこいつも使えない。


「…だからお前らは何時まで経っても三流なんだよ。…精々父上の機嫌を損ねないように頑張るんだな」
「王子!!」


近衛隊長が意を決して陣に飛び込もうとした瞬間、俺は空中で腕を横に切った。
途端に光に包まれる体。
数日前のあの瞬間と同様、
俺の体は、近衛兵たちの前から姿を消した。
途端、狼狽える近衛兵。


「き、消えた…?」
「王子…!?」
「ー…な、何をぼさっとしている!人間が消える訳があるか!直ぐに部屋を…、城内を探せ!!!」
「「はッ!!!」」



王国、ヴェルキーシュ。
魔術という不思議なチカラを操る一族が王家に仕えていることで有名だった国。
複雑な地形のせいで国交があまりなく、他国との関わりが薄かった国。
その国は、先日何故か、一人の魔女に国外追放を命じた。
その国は魔女を追放するや否や、すぐさま他国と条約を結び、数少ない国交相手である隣国の助力を得て、他の国との国交作りに着手し始めた。
そして今日、
国交により新たな歴史の幕開けとなるはずだった今日、この日。


魔女の追放からほんの3日後のこの夜。
祝賀パーティーの開かれたヴェルキーシュ城、
その城内部で、
現国王の一人息子が、



――…パーティーの最中に、
     姿を消したのであった。





国交なんかクソ喰らえ。


(例え何が待ち受けようとも、)
(俺はお前を見付け出す)
(覚悟して待ってろよ)


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