アパートの母。


さて。
佐倉楓香の住むアパートは四階建てである。
その内一番下の階、つまりは一階部分が大屋さんの経営している喫茶店になっていて、そのとなりに管理人室があるわけなのだが。
比較的一人暮らし率が高いこのアパートの住人は、料理が面倒になるとわりと迷わず喫茶店にやってきたりする。
だからといってはなんだが、このお店は結構重宝されているのだ。
かくいう楓香もその一人。
ショッピングからわざわざ沿岸を経由して、長時間運転をこなした楓香はもとより料理をする気はさらさらにないので。
友人に車を返してすぐ、王子を連れて喫茶店に直行である。
その喫茶店、つい半年前くらいに大家さんが息子さんに交代した関係で、店主が管理人室ではなく家に帰るようになったために、喫茶店の営業時間が短くなってしまった。
楓香たちが入店したのは、閉店時間5分前。


「山田さーん」
「いらっしゃい楓香ちゃん。
…あら、そっちの男の子は?」
「居候。…にする予定。なぁ山田さん、コイツ居候させたら家賃高くなる?」
「家賃?…そうだねぇ、高くしてほしいのならご希望に沿うけど、」
「まさか」
「だろう。いいよそのままで。どうせ使うのは楓香ちゃんの部屋だけなんだろうからね」
「サンキュー山田さん…!」


そんな会話をしつつ。
何気なくさりげなく店のテーブルにつく二人。


「注文決めときな、店閉めてくるから。そっちの男の子もね」
「はーい。」
「…うむ。」


そしてそれをすんなり受け入れるアパートの頼れる母さん、山田珠代53歳である。




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