寝起きパニック



「騒ぐな」



そう、耳元でくぐもった声が聞こえた。
それは男の人特有の低い声。
妙に響くその声に、不覚にも背筋がぞわりとした。
うつ伏せの背中に掛かる圧、手首も掴まれて動かない。
日常生活ではまず体験し得ることのない背後からの圧だ。
うつ伏せの楓香の背中にはナニやらゴツゴツした棒状のものが押し付けられているらしい。
それは棒、というか骨というか、強いていうなら肢体の一部、というべきモノか。
それが何故押し付けられているのか、何故そんな状況に陥っているのか。
わりとそこそこ頭の回る楓香は瞬時に理解する。
背中の上に乗っているそれが誰かの足で、自分の上に乗っているのが明らかに、にんげん、だ、ということを。
気付いて数秒、
これはわりとマズい状況なんじゃなかろうか、なんて冷静に考えた後頭がパニックに陥る。


「ちょッ、!何だッ!?誰だッ!?」
「煩い黙れ、騒ぐなと言っている」


そんな思いやりの欠片もないような。
ぐッと後ろ手に捕まれた手首に圧力をかけられて、楓香は僅かに眉を寄せる。
でも屈しない。


「人様ン家に不法侵入しといて何様だコラァ!!つか退けよ人の上からッ!警察に通報すンぞ!!」
「黙れと言うのがわからないのか」
「うるッせぇ阿呆、黙れと言われて黙る人間が何処にいる!」
「ならこうしよう」
「むぐッ!?」


ぼすッ、と、
後頭部を捕まれて何のためらいもなく顔面を枕に。
そして、圧力。
息が出来ないじゃねぇか、
なんて、考えてる余裕もない。



「むぐぐぐぐッ!」
「 黙 れ と、言っているのが分からんのか」
「ンぐッ、むぐぐッ」


足をバタバタさせて抵抗して。
そろそろ本気で息がもたない。


「……………………ッ、!」


バタバタと足だけを動かして。
気付いたらしい不審者がハッとなって手を離す。


「ぶッ、はぁぁあッ!
テメェコラ不審者!殺す気かコラァァア!警察に通報すンぞ!」
「黙れ」
「はぁぁあ!?」


楓香は思わず絶句した。
黙れとか何様だ。
人を窒息死寸前まで追い込んでおいてなんだ。
意味がわからない。
ちょっと顔面をぶん殴ってやろうかと思って腕に力を込める。
それでもすぐそば、ぐッ、と、手首にますます圧をかけられ痛みに僅かに眉を寄せる。
反抗してわたわた暴れてみても、力の差から抵抗は意味を成さないのだけど。
まぁ枕で酸素不足に追い込まれるよりはマシだろう。
それでも諦めず退けよとか、放せよとか、暴言を吐きながらも抵抗を続けてみる。
夜這いか、夜這いなのか。
ならば夜這い犯には楓香の所に来てしまったことに対して目一杯同情をくれてやろうかと思うのだが。
ベッドに張り付けられるようにして身動きが取れない中、楓香は唯一動く首を回して暗闇の中で携帯を探す。


「オィコラ不審者、てめェこんなトコに何しに来やがった…?残念だがあいにくウチにゃ金目の物なぞ欠片も無ェぞ」
「……………、」


とりあえずその場しのぎで言葉を投げ掛けるも、夜這い犯(仮)は無視をぶっちぎる。


「オィコラ不審者、何とか言えコラ」


携帯を、見付けた。
ベッドを降りたすぐ脇にある小テーブルの上。
そう届かない距離じゃない。
気付かれてもいない。
夜這い犯(仮)の体勢も幸を奏して、勢いよくテーブル側に体を反転させれば何とか拘束からも逃れられそうである。
あとは夜這い犯(仮)の力が緩んだスキを狙って、携帯をかっさらって部屋から出れば一応楓香の身の安全は保証されそうだ。
とりあえずカモフラージュとしてわたわた暴れて、、、
うん、かんぺき。






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