オカルト少女


そんなこんなで数十分。
ようやく釘を打ち付ける音が聞こえなくなってきたなと思っていたら、部屋の中からパタパタと玄関に近付く音がしてきた。
それに気付いて王子がドアをノックしようとしたと同時、拳が扉に触れる前にガチャリと鳴ったドアの隙間から、部屋の主たる少女が顔を覗かせた。


「…こんにちは佐倉さん、」
「え、あ、嗚呼、どうも」
「……それから、…王子くんですね」
「…突然の来訪申し訳ない、俺のことを知っているようだから自己紹介は省くが…今田殿で合っているか?」

出てくるや否や、然も当然の如くにっこりとした笑みを浮かべる少女に、楓香は虚を突かれたように素頓狂な返答をしてしまった。
王子は対して、なれた様子で軽く謝罪をすると同時、早急に事を進めようと早速ながら本題に入ろうと少女の名を尋ねた。
すると少女は何でもないことのようにこくりと頷いて、笑み。


「ええ、今田は私ですよ。どうぞ上がってください、…私にお話があるんですよね?」
「…え、何で知って…」


扉を完全に開いてごく自然に二人を部屋に招き入れようとする今田。
彼女が何でもない風に言った言葉に引っ掛かりを覚えた楓香は、思わず思ったことを口にしてしまった。
それは、今しがた部屋から出てきて挨拶をしただけの人間には知る由もない楓香たちが来た理由。
王子も不思議に思ったのか、珍しく楓香が止める前に部屋に入ろうとしていた足を止めた。
二人して顔を見合わせて、頭上には疑問符を。
それでも少女はやはり、何でもない風ににこりと笑み、本当に何でもない風に言って退ける。


「魔法使いの弟子、ですから。」
「…え、」
「予感っていうんですかね?何となく、そんな気がしただけですよ。だからそんなに警戒しないでください。用事があるのは本当でしょう?」


さ、どうぞ。
と、部屋の中へと導く手に誘われて言われるがままにお邪魔する。
楓香の部屋の上の部屋、ということもあってだろうか、玄関から部屋に繋がる廊下の配置は何から何まで一緒だった。
違うのは、壁に貼ってある意味深なポスターだとか、ぬいぐるみだとか置物だとか、あとは廊下にあるキッチンで使っている道具が楓香の部屋より断然多いことくらい。

キッチン、と言うよりか、廊下と部屋の間には木製のドアがある。
それはこのアパートにある部屋なら全て共通らしいのだが…、
その、ドアの先が。
所謂今田少女の部屋と呼ばれるその空間が、何というか凄かった。

ガチャリ、
今田がドアノブを捻ってドアを開けると、その先はまさかの真っ暗闇だった。
思わず、楓香よりも先にいた王子が此方に振り向く。


「楓香、今は昼ではなかったか」
「昼だったハズだぞ」
「というかまだなんとか朝に分類されると思いますよ、今10時48分ですから」

普通に会話に入ってきた今田に、二人は何とも言えない視線を送る。
なら何故カーテンを開けない、みたいな感じの。
しかし何の弁解もしない彼女は、慣れた足取りで以て蛍光灯へと繋がるスイッチの元へと歩いていく。
少しの間を置いて、王子がぽむと手を叩いた。


「そうか、朝起きてカーテンを開けるのが面倒臭かったのだな」
「待て王子、何故その結論に至った」
「ふふ、それでもいいですけどね。カーテンを開けない理由は今となってはありませんし、大体合ってますから」
「合っちゃってるのか。つか、開けない理由がないなら何で開けないンだよ」
「見ればわかりますよ」

そう言って今田がパチンと部屋の電気をつけると同時、目の前に広がったのは、楓香の部屋とは明らかに異なった空間だった。
まず最初に視界に飛び込んできたのは、壁に掛かった大量の掛け時計。
その全てが2時30分を示しているものだから何とも異様な光景である。
そして更に部屋を謎空間に作り上げているのが部屋にあるものたち。
まず部屋の中心に円形テーブル。
黒いテーブルクロスがかけられているそれ。
その上に蝋燭と、幾本かの釘。
木槌。
数珠、謎の布製人形。
部屋のすみに、下駄。
壁に、なんか白い浴衣みたいな。


「……………………………、」


ベッドの横にある机の上には、漫画で見るような厚い表紙の魔道書みたいなのがずらり。
インク瓶、羽根ペンに羊皮紙。
星座早見盤みたいなやつは羅針盤と言うんだったか。
よく見ると色々な本の間からタロットカードが顔を覗かせていたりして。



「(…まるで栞代わり…)」

それでも、机の端にはちゃんとまとめられたタロットカードが束になっているようだった。


「わかって頂けたと思うんですが…、カーテン、開けると物の場所が動くんですよ」
「わかんねー。置く場所変えろよ」
「嫌ですね佐倉さん、動かしたら風水の力が弱まっちゃうどころの騒ぎじゃありませんよ」
「何そのイメージしにくい悪影響」
「あと、開けると西日が入ってきて色々褪せるんですよ」
「急にイメージ楽だな。…じゃなくて西日の時間帯になったら閉めりゃいいじゃん」
「いちいち明け閉めするのが面倒なので」
「結局それかよ」

はふん、
僅かに呆れを隠らせてため息をつく。
今田に、悪びれた風はない。
むしろ、自分がやっていることは正しいのよ、とでも言いたげに再度、
笑み。


「術の発動に最も適しているのは暗闇です。邪魔な物を排除してくれる暗闇。暗闇は有を無に、無を有にしてくれるんですよ」
「…………?」
「…さぁ、本題に入りましょうか」


意味深な台詞と共に彼女が指差す部屋の中心。
そこにある円形テーブルを三人で取り囲んで。

楓香と王子の魔女探しが今、本格的に始まりを告げた。





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